"The Boss"( 原題『ボス』)


『ボス』写真クレジット:Universal Pictures
孤児院で育ったミッシェール・ドネール(メリッサ・マッカーシー) は、成長して事業家となり、強引なやり方で大成功。ところが、株のインサイド取引が発覚して刑務所に送られた。出所後、全てを失い、シングルマザーで元アシスタントのクレア(クリスティン・ベル)の家に転がり込む。
クレアにはガールスカウトに所属する娘がいてクッキー販売をしており、それに目をつけたミッシェールは、クレアと少女たちを巻き込んだ事業を思い立つ。

主人公は女性、登場人物のほぼ全てが女性と少女。彼女たちが力を合わせて事業を盛り立てながら、ジコチュウだった主人公が友情を知っていくというお話なのだが、女性への啓発度はゼロ、正直なところ途中で観るのを止めようかと思った。

ガールスカウトが出ているのに下ネタジョークが多く、対立が起きると意味のない殴り合いを始めたりと物語のトーンがバラバラで、結末もミエミエ、ほとんど笑えなかった。低俗という言葉は使いたくないが、手軽なやり方で笑いを取ろうとする粗雑なコメディの典型といえるだろう。

マッカーシーは世界の女優の中で3番目に高額な収入があるという人気絶頂のコメディアンヌ。11 年の『ブライズメイズ・史上最悪のウェディングプラン』で注目を浴びて以来主演作が続き、『デンジャラス・バディ』や去年の『スパイ』などの楽しく笑えるヒット作がある。

反面ゲンナリする失敗作もあって、夫のベン・ファルコーンが監督した『タミー』もその一つだが、興行的には成功。本作の脚本・監督もファルコーンが担当し、またしても興行的にはヒットしている。夫とのコラボで彼女が製作総指揮した本作、自分の人気に乗って安直に作った作品でも収益は上げられるという狙いがあったかどうかは知らないが、こんな映画ばかり作っていると確実に人気は落ちていくだろう。

マッカーシーには絶対的な才能がある。登場するだけで画面に広がる華やかな明るさや軽快でコミカルな動き、そして得意の長い台詞を超スピードで叩き出して相手をけむに巻く演技の巧みさなど、彼女のコメディアンヌとしての実力は実証済みだ。しかし、いくら才能のある彼女でも、脚本が悪ければ全く笑えないのだ。バナナの皮で滑って転んでも人は笑える訳で、だからこそ面白く笑えるコメディを作るのは簡単ではないのだと思う。

彼女の次回作はこの夏公開の『ゴーストバスターズ』のリメイク。監督が『スパイ』などのポール・フェイグなので、今度こそたっぷり笑わせてほしいと願っている。

上映時間: 1時間39分。
"The Boss" 英語公式サイト:https://www.uphe.com/movies/the-boss