“Snowden”(邦題『スノーデン』)


写真クレジット:Open Road Film
2013年、香港のホテルで元CIA職員エドワード・スノーデン(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)は、米国のドキュメンタリー映画監督(メリッサ・レオ)と英国『ガーディアン』紙の記者二人(トム・ウィルキンソンザカリー・クイント)らの前で、米国の機密に関する内部告発を語り始めた。
その内容は、中央情報局(CIA)と国家安全保障局NSA)による市民や他国への大掛かりで不法な盗聴、個人情報収集の実態。スノーデンはなぜ情報漏洩罪等となる国家機密を告発するに至ったか。その背景が回想される。

政治性の強い映画作りで知られるオリバー・ストーン監督の伝記的ポリティカル・スリラー。今でもスノーデンを国家の裏切り者とする米国民は多く、監督は本作のための資金調達が米国内で出来ず、ドイツなどから資金を得て完成させた労作だ。

スノーデンという言葉が喚起するのは内部告発者の名前というより、生活の全てが監視システム下にあるという現状への再認識ではないだろうか。犯罪が起きればいとも簡単に監視カメラの映像や個人間のテキストのやりとりがTVやネットで流れる。そういう時代を生き、そんな監視アプリを開発してきた一人がスノーデンだった。

彼は911以後の対テロ戦争時代に軍に志願入隊して重傷を負い、ITの能力が認められてNSAにスカウトされた。その後、優秀な情報工学者として、独自の監視システムを構築するなど最前線で活躍してきた彼は、米国的に言えば愛国者。だが、偉大な米国を信じる愛国者だからからこそ、不法な監視体制の拡大が看過できなかった。

国に幻滅した彼の真面目でややオタクな人となりと告発に至る経緯が、恋人(シェイリーン・ウッドリー)とのギクシャクした関係などを絡めて描かれていく。

告発当時29歳だったスノーデンの生活上の悩みを描くことで、彼に一人の若者としての立体感を持たせようとした意図だと思うが、二人のあらそいは若い恋人同士以上の内容に至らず、この演出が本作を損なった感がある。

導入部は、アカデミー賞受賞のドキュメンタリー『シチズンフォー』のインタビューをそのまま再現してなかなかスリリングなのだが、やはり『シチズンフォー』の持つ張り詰めた緊張感は伝わらず、同じ対象を描いているが、まったく別物という感想を持った。

最後に彼の告発から2年後の昨年、NSAの電話通信記録収集活動に、一定の制限をかける「米国自由法」が可決し、活動予算もかなり減ったようだ。だが、これで安心できるかと言えば、ノーではないだろうか。

上映時間:2時間14分。日本では1月27日から劇場公開。

“Snowden" 英語公式サイト:https://snowdenfilm.com/
『スノーデン』日本語公式サイト:http://www.snowden-movie.jp/