"The Man Who Wasn't There"

『ファーゴ』などの暗いユーモアのある犯罪映画で知られるコーエン兄弟の最新作。監督のジョエル・コーエンはこの作品で今年のカンヌ映画祭監督賞をD. リンチと分け合った。

1940年代のカリフォルニア北部、サンタローザが舞台。夢もない、口数も少ない平凡なバーバー、エド(ビリー・ボブ・ソートン)は、妻ドリス(フランシス・マクドーマンド)が彼女の上司デイブと浮気しているのを知る。一獲千金を狙っていた彼は、妻の浮気を種にデイブを脅し、大金をせしめる。が、事態はその後クラクラするような皮肉な展開をしていく。

ジェームス・ケインの小説世界を下地に、主人公の独白と白黒映像で、フィルムノアールのムードを再現する意図は見事に成功。映像の美しさと主演俳優たちの好演による作品の完成度はかなり高い。しかし、よく似た設定のコーエン初期の傑作『ブラッド・シンプル』の苦いアイロニーと戦慄を感じることは出来なかった。