"An Inconvenient Truth"

写真クレジット:Paramount Classic's

去年、南部を襲った超大型ハリケーン、04年に日本を何度も直撃した記録的な台風の数などを持ち出すまでもなく、気象異変は地球規模で起きている。その原因が地球の温暖化にあることは、疑う余地がない。
だだ、それがどれ程のスピードで進行しているかを知らない。自分が生きている間くらいは大丈夫と、高をくくっている人も多いだろう。私もその一人だった。
しかし、スピードは予想よりはるかに速かった。2050年の夏までに、北極の氷が完全に溶け、世界百万以上の種が絶滅する、とアル・ゴアは予測を語る。この夏一番のホラー映画と呼ばれるのも頷ける。

彼のライフワークである地球温暖化についての講演会と、彼の語りで構成された映画だ。世界各地で多発する豪雨、砂漠化、消え行く氷河、激変する生態系などの映像と気象データを駆使し、温暖化の現状をわかりやすく解説している。ゴアのソフトで平明な語り口に、ぐんぐん引き込まれた。6月第一週の公開以来、全米で静かなヒットが続いている。

ブッシュ政権は現在でも、先進国等に対し、温室効果ガスの数値を削減することを義務づける京都議定書への調印を拒んでいる。表向きの理由はともかく、温暖化の主因である排気ガスを吐き続ける、車社会を支える石油産業の意思を感じる。現政権は、彼らに莫大な利益をもたらす石油確保のためにイラク戦争を始め、その目くらましのためにテロの脅威を煽ってはいないか?
ゴア氏は、車に乗る前に歩こう、環境基準を整備しもっとリサイクルを、と訴える。今からでも、温暖化に歯止めをかけることは出来る、ここ10年が勝負だ、と語る。

2000年の選挙で、ゴアから大統領の椅子を奪ったブッシュが煽る「テロの脅威」と、ゴアが警鐘を鳴らす地球温暖化の脅威。石油をめぐって、まったく正反対の主張をするこの二人を見ていると、明暗をわけた歴史の皮肉を思わずにはいられない。
一見無縁に思えるテロと温暖化の脅威は、共に人の欲望が作り出した脅威でもある。人が作った脅威なら、人が抑制することも可能。潤沢な石油に支えられた快適な暮らしか、石油に頼らないちょっと不便な暮らしか。それを選ぶのは、私たち一人一人だ。
監督はデイヴィス・グッゲンハイム。上映時間:1時間40分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターとUAストーンズタウン・ツインで上映中。