"The Devil Wears Prada"

写真クレジット:20th Century Fox's

プラダが何かを知らない人でも楽しめる、よく出来たコメディ映画だ。
主人公は、硬派のジャーナリストを目指す優秀な新卒アンドレア・サックス。彼女は、まったく興味のない有名ファッション雑誌に職を得て、女編集長ミランダ・プリーストリーのアシスタントになる。ところが、ファッションの鬼ミランダは、ソフトな声で独裁者のように振る舞う最悪のボス。彼女の命令には絶対服従、処理は大至急という職場で、部下たちは戦々恐々、アンドレアも出会いがしらに「デブ」と言われて、メゲる。だが、「娘のためにハリー・ポッターの印刷前の最新作を手に入れて」などという公私混同もはなはだしいボスの要求に、スポ根的がんばりで対応していくうちに、ミランダの信頼をかち取って…というお話だ。

トレンドという現代の神話を作っては捨てていくファッション業界を、戦場のように描いて面白い。そこで孤軍奮戦する若い女主人公を、おしゃれに描くシンデレラ・ストーリーだ。が、主人公が手に入れるのはプリンスではなく、「自分らしいキャリア」という点が現代的。それを見つめる大先輩ミランダの視線も悪くない。

史上最悪のボスを演じたメリル・ストリープ(写真)は、期待通りの上手さで、映画の大きな見どころだ。生涯満腹感を持つことを自分に禁じ、私生活のトラブルも乗り越え、戦場を生きる場に選んだ武将のようなキャリアウーマンを、すっきりと演じている。「プラダを着た悪魔」というタイトルの、力を持つ女を揶揄(やゆ)するようなトーンを、ストリープがはね返した感じだ。

原作は、ファッション誌 "Vogue" に在籍した若い編集者ローレン・ワイズバーガーが書いた同名小説。自身の経験を活かして、ニューヨークのファッション業界に生きる人々の素顔やゴシップを書いて、03年にベストセラーとなった。本の方は、若い女性の辛口ユーモアを楽しむ軽い読み物という印象だが、映画のテーマは明快。百万人の女の子が憧れる職業を目指す、中高校生にぜひ薦めたい映画だ。

監督はテレビドラマなどを長く手がけてきたデヴィッド・フランケル。出演はアン・ハサウェイスタンリー・トゥッチなど。上映時間:1時間46分。主要シアターで上映中。