"Traffic" 


アメリカを内側から蝕んでいる麻薬戦争の現状に肉迫する社会派サスペンス映画。
麻薬流通(Traffic)戦争の最前線であるワシントンDC、サンディエゴ、ティファナの3か所が舞台。各地点で流通を阻止しようとする米国/メキシコ政府側の人間と、冷酷で周到な組織力を持つメキシコ麻薬カルテルとの攻防戦を、生々しい人間ドラマを複雑に絡ませなながら描いていく。

米国政府の麻薬対策最高官僚の父(マイケル・ダグラス)と麻薬中毒の深みにはまってしまった一人娘との悲痛な闘い、麻薬流通の罪で捕まった夫を救うために殺人依頼をするハイソな夫人(ダグラスと最近結婚したばかりのキャサリン・ゼタ・ジョーンズ)、メキシコの街でカルテルの動きを封じ込めようしてカルテルの罠にはまる警官(ベネシオ・デル・トロ、この役でアカデミーの助演男優賞受賞)など、人間ドラマに表出する一筋縄ではいかない麻薬問題の根の深さをじっくり描き、見ごたえ充分。

とりわけジョーンズの演じた麻薬流通元締夫人の上流奥様ぶりに貼り付いた自己中心性が強烈。留置所にいる夫に「あたしの暮しは一体これからどうなるのよ!」と怒り狂ったかと思うと、夫を無罪にするために証人を殺させる冷血をあらわにする女に、麻薬戦争の根に広がる物質至上主義が見事に象徴されているように思えた。

社会問題と人間ドラマをうまく融合させて、第一級のエンタテイメント映画をつくる手腕で、アメリカは伝統的に抜きん出ている。原発問題を扱った『チャイナ・シンドローム』や、TVの視聴率戦争を描いた『ネットワーク』など、70年代には骨太な作品がよく作られたものだが、最近はすっかりなりを潜めていたので、この一作はうれしかった。
監督は今最高にノッているスティーブン・ソーダーバーグ。