"The End of the Affair"

不思議な力を持った恋愛映画

名画『第三の男』の原作者グラハム・グリーンの自伝的小説を、『クライング・ゲーム』のニール・ジョーダンが脚本化し、監督した大人の恋愛映画。不倫の愛を扱いながら、醜い三角関係を描く難を避け、むしろ官能の悦びと嫉妬の苦しみ、強い信仰の力に突き動かされる複雑な人間心理を描く好作品となった。

舞台は1947年のロンドン。作家モーリス・ベンドリックス(『イングリシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインス)が、2年前の戦時中を回想するところから始まる。
モーリスと裕福な役人の妻サラ・マイルズ(『ブギーナイト』のジュリアン・ムーア)は、出会ったその夜から激しい恋に落ちる。二人は夫ヘンリー(『クライング・ゲーム』のスティーブン・リア)の目を盗んで情事を重ねるようになるが、愛人モーリスの夫ヘンリーへの執拗な嫉妬に、サラの心は曇っていた。

そんなある日、二人の密会場所が爆撃を受け、モーリスは九死に一生を得る。ところが、サラはその日を境にモーリスと会うのを止めてしまう。サラの突然の変心に戸惑い、嫉妬に狂うモーリス。探偵を雇ってサラの身辺を調べさせ、サラの信仰に係わる秘密を知るのだった。

現在と過去を行き来する時間の中で、次第に明かされていく謎と思いがけない展開に、古典文学を読んでいるような豊かな情感と作品のテーマが浮かび上がってくる。
永遠の愛は存在するのか? 
神との約束を人は守ることができるのか? 

恋敵であるはずのヘンリーとモーリスが、サラを挟んで互いへの友情と理解を深めてゆく成り行きもいい。『モナリザ』や『クライング・ゲーム』などで、男の優しさを描いて来たジョーダン監督の独壇場という感がある。

配役もよかった。官能の世界に溺れながらも、神との約束を守ろうとするアンビバレントなサラを好演したジュリアン・ムーア。クラシックな風貌でエキセントリックな恋人役を演じたレイフ・ファインス。そして、妻の裏切りに、怒りよりも悲しみを募らせる平凡な男の苦しみを演じたスティーブン・リアがとりわけ素晴しい。一流俳優たちの名演によって、不倫の愛という言葉に張り付いた何やら後ろ暗いイメージが払拭され、ノーブルで不思議な力を持った恋愛映画に仕上がっている。