"Superman Returns"


写真クレジット: Warner Bros.

完璧な肉体を持った超人が、大気圏から青い地球に向けて、彗星のような速さで垂直飛行する。スパイダーマンがビルの谷間を行くのとは、似て非なる飛行の美。その壮大さと単純さにあるピュアな快楽と、人が天空を飛ぶという不可能が、映像の中で軽々と美しく実現される陶酔感を、映画館の大スクリーンで味わって欲しい。
78年に映画化され、4作製作された『スーパーマン』シリーズのリメイク。前シリーズは、回を追うごとに愚作化し、87年に消えたが、今回の物語はその続き。
5年ぶりに地球に帰ってきたスーパーマンが、子供も婚約者もいるかつての恋人ロイス・レーンとの関係を修復し、シリーズに何度も登場した天才的悪玉ルーサーの野望を打ち破る、というもの。危機と戦う超スピード・アクションに、ロイスとのこじれたロマンスを挟み、「えっそれもアリ?」という謎で最後まで観客を引いて、娯楽映画として文句なしに面白い。
しかも今回のスーパーマン、何やら神々しい。
彼が天空で、赤いマントをなびかせながら、地球を見下ろすシーンの神々しい静けさ。生まれた星を失った悲しみ、宇宙に一人漂う存在の孤独、ロイスの心がつかめない苦しさ…。
人間的な苦悩を持った超人だが、次の瞬間には人の苦難を救うため、地球に全力で戻っていく。その好対照が、超人に陰影を与えた。
青春の悩みを抱えたスパイダーマンや、過去の記憶に悩まされるバットマンなど、それぞれに人としての葛藤を抱えて印象に残ったが、スーパーマンは宇宙人。鋼鉄の肉体と島をも持ち上げる強力(ごうりき)を持ち、天空を飛ぶ。その完全無欠の存在が、人間に恋をして、悲しみを持った。その陰りが、彼を美しく、神々しく見せているのだろう。
監督("X-Men"シリーズのブライアン・シンガー)は、スーパーマンを、人であり神でもあるキリストになぞらえることで、地に落ちたシリーズの名誉挽回を果たそうとしたのだろう。その狙い通り、超人は見事に復活した。
出演はスーパーマンに新人のブランドン・ラウス、ルーサーにケヴィン・スペイシー 、ロイスにケイト・ボスワース。上映時間:2時間37分。主要シアターで上映中。