"Favela Rising"


写真クレジット:ThinkFilm, HBO/Cinemax Documentary Films

奇跡というのは、真に奇跡を必要としている人たちの身に起きるのではないか。そんなことを思わせてくれるパワフルな映画だ。
リオデジャネイロのスラムで、現在も活動を続ける社会運動を追ったドキュメンタリー映画。今年のサンフランシスコ国際映画祭で上映され、簡単な紹介を書いたが、8月9日(水)からSFのミッションにあるロキシー・シネマセンターで、一週間だけの一般上映があるので、改めて紹介したい。

Favelaという不法定住者地区で、音楽とダンスによる文化と生活の革命を起こそうと立ち上がったアンダーソン・サーと、彼のグループGCAR (“AfroReggae Cultural Group”) の活動を追っている。

リオ人口の1/3を占める貧しいスラムでは、麻薬ギャングに加わる子供たちが後を断たない。麻薬販売人だったサーも、兄や友人の多くを殺されていた。そんな彼が、93年の警察によるスラム住民への無差別報復殺人がきっかけに、報復と暴力以外の道を探り始めた。
ヒップホップ、カポエラ(ブラジル武術)、パーカッションなどを通じて、麻薬ギャングと警察の抑圧を跳ね返そうと、子供たちに呼びかけ、学校や空き地で無料コンサートを始めたのだ。荒削りだが迫力と生命力に溢れるコンサートが素晴らしく、生命の爆発と躍動をつたえるGCARの運動が、若者や子供たちを魅了しないはずがない。空き缶やプラスチック容器をドラム代わりに、リズムを学ぶ子供たちに、生き生きとした表情がもどってくる。

その後、GCARの活動は他のスラムにも広がっていくが、ある事件が起きて、サーたちに絶望的な試練の日々が訪れる。そして、次に起きたことは、あまりにドラマチックだった…

希望以外何もないスラムの革命運動だったからこそ、金でも人的支援でもない、奇跡が必要だったのではないか。そんな感慨が深まる。情報と資源を浪費して、簡単に絶望し希望を失う豊かな私たち。深い絶望を経験したサーたちに、胸ぐらを掴まれた思いだ。それは面白い映画を観たという以上の体験だったと思う。
監督:ジェフ・ジンバリストとマット・モチャリー。上映時間:80分