”World Trade Center”

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写真クレジット:Paramount Pictures

9/11の事件から、すでに5年。節目にあたって、社会派のオリバー・ストーン監督が、実話に基づき描いた二組の夫婦の物語。"JFK"などを通して、独自の歴史解釈や陰謀説を提出してきたハリウッドの「問題児」にしては、かなりオーソドックスな作品で、肩すかしを食らった気分だ。
9月の蒸し暑い朝、港湾警察官のジョン・マクローリンとウィル・ヒメノは、ワールド・トレード・センターでの異変を知って現場に向かう。が、何もする間もなくビルが倒壊。二人は瓦礫の下敷きに。身動きが取れず、通信も不能。声を掛け合いながら互いを支えあう二人。家では、事態を知った家族が騒然となり、夫の消息が掴めない妻も、長く苦しい時間を過ごすことになる…。
「政治的な作品ではない」という監督の言葉どおり、政治家もテロリストも英雄的な大活躍をする人も登場せず、動けない二人の男と、不安な時間を過ごす妻、そして救援隊の様子が克明に描かれていく。極限状況におかれた市井の人々と、絶望的な状況に青ざめる救援隊員たちが痛々しく描かれ、心動かされる演出だ。
しかし、延々と描かれる個人の苦しみを見ていると、フト、この苦しみは落盤事故でも同じではないか、という気になってくる。あの日から政治的なものを排除すれば当然のことだが、ではなぜそれを、世界を激震したあの日のドラマとして描く必要があったか、という疑問が浮かぶ。
あの事件が、NY市民にとって地面が割れるような未曾有の体験であったことは、ビビッドに伝わってきた。が、落盤のような不慮の事故ではない。その体験を「政治的でなく」描こうとして、事件の衝撃を慰撫するだけの感傷的な作品に陥ってしまった感がある。
瓦礫に埋もれた人々は、レバノンにもイラクにも、今いるはずだ。家族を思う気持ちや救援隊の苦労に、アラブもアメリカも違いはない。映画の大半を、瓦礫に囲まれた顔だけで演じ通したたニコラス・ケイジを見ながら、そんなことを思わずにはいられなかった。
出演は他にマイケル・ペーニャマギー・ギレンホール、リア・べロなど。上映時間:2時間9分。市内シネコンで上映中。