"The House of Sand" (Casa de Areia)


写真クレジット:Sony Pictures Classics

ブラジルの北東部に広がる美しい砂漠地帯レンソイス・マラニャンセを舞台に、母と娘の60年にわたる砂漠との格闘を描いたブラジル映画。広大なマラニャンセの神秘的で苛烈な自然をとらえた映像が秀逸だ。

1910年、砂漠の開墾に妄執した夫の死後、オーレアは砂丘の家に老母ドナ・マリアと共に取り残される。オーレアは街から来た女。彼女は砂漠脱出を生きる目的にする。が、身重の彼女と老母の砂漠脱出は不可能だった。娘マリアが生まれ、母が逝く。そんなある日、オーレアは街からきた男に恋をする。女を砂漠から救うのは、文明の世界からやってくる男のはずだった…。

なだらかな曲線を描く砂丘の女性的な美しさは若いオーレアの美しさを象徴し、一夜で景観を変える激烈な自然もまた彼女の激情を象徴する。オーレアの砂漠との格闘は、自己との闘いでもあった。失意の中で彼女は、見下していた土地の男を受け入れ、砂漠を受け入れる。一方、成長した娘マリアは、母の果たせなかった夢を果たそうとする…。

母から娘へとカルマ的に受け継がれる自由への希求。蜃気楼のような文明の幻を追い求めた女たちの若い激情と、成熟による受容の対比。3世代の女たちを実際の母娘であるブラジルの名女優二人が演じ分けて、効果的だ。

砂漠を激しく拒否する若いオーレアとマリアを娘のフェルナンダ・トーレスが、19世紀の女ドナ・マリアと砂漠と生きる成熟したオーレアを母フェルナンダ・モンテネグロ(”Central Station")が演じている。エレナ・スアレズのオリジナル脚本は、そもそもこの二人のために書かれたものだった。

監督は気鋭の若手アンドルーシャ・ワディントン。この作品が2作目だが、力強い演出と鮮烈な映像美は名匠の予感。女たちの運命を静観する砂漠の男達の、黒くしなやかな身体と優し気な視線も強く心に残った。
上映時間:1時間43分。サンフランシスコはクレイシアターで上映中。