”The Last King of Scotland”


@Fox Searchlight Pictures


ウガンダのイディ・アミン元大統領の映画だと思って観に行ったら、主人公は彼ではなくスコットランドの若い医者だった。ウガンダに居住したのことある英国人作家ジャイルズ・フォーデンの同名小説(邦題『スコットランドの黒い王様』)の映画化、フィクションだ。

育ちの良い好奇心旺盛な若者ニコラス・ギャリガンは、ロマンスと冒険を求めてウガンダに行き、ひょんなことからアミンの主治医となる。アミンは当時クーデーターに成功し、国民の絶大なる人気を得ていた。ナイーブなニコラスは、英雄アミンの建国の理想と人柄に魅了され、英国嫌いでスコットランド好きのアミンからも片腕と信頼される。だが、次第にアミンの独善的で異様な行動に嫌気がさし、帰国を希望するだが…。

アミンは在任中の71年から79年の間に、ウガンダ軍の2/3の軍人兵士を殺し、30万人もの人を殺したと言われる独裁者だ。殺し方も残虐を極め、好色で愛人を何十人も持ち、人肉を食べたとも伝えられる怪物的な男。しかし、この映画ではもっぱら、ニコラスの目を通したアミン像が描かれる。賢明ではないが魅力的な男が国民に大きな夢を与え、疑心暗鬼(ぎしんあんき)や奇行で徐々に怪物性を増していく過程は、独裁者に共通している。アミンの正気と狂気を演じた分けたフォレスト・ウィテカーの鬼気迫る名演が大きな見どころだ。

全編、凄惨な事件や場面を直接的に描くことは避けているものの、最後なってニコラスの危機を描く残酷なシーンが続く。そのサスペンスは映画的には上手いが、彼のために犠牲になるのがすべてウガンダの人々だ。そのためか、軽卒な行動から墓穴を掘った白人青年の運命に共感は寄せがたかった。虚構であると判りつつも、この映画が長年ウガンダを植民地にした英国の作品であることを考えると、植民地主義がほぼ不問であったことも厚顔(こうがん)に思えた。

監督は "Touching the Void" のケヴィン・マクドナルド。出演は他にジェームズ・マカヴォイケリー・ワシントン、ジリアン・アンダーセン。上映時間: 2時間3分。サンフランシスコは10月6日より上映開始。