アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督に聞く


写真クレジット:Paramount Vantage

出会いがしらに「あと何人と取材が残っているんだ?」と宣伝担当者にいら立ちをぶつけた。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は、思ったことをハラにためない性分らしい。

今年カンヌ映画祭に出品された"Babel"で監督賞を受賞したメキシコ生まれの43才。ブラッド・ピットなどハリウッドの人気俳優たちが、こぞって彼の作品に出たがる注目の監督だ。

"Babel"は、親子と生死を見つめるイニャリトゥ監督の三部作最後の作品。モロッコ、米国、メキシコ、東京を舞台に、9/11以後に激変した世界の中で、さまざまな事件に翻弄(ほんろう)される夫婦や親子の姿が描かれる。

東京国際映画祭で"Amores Perros"がグランプリを取った時に日本に行って以来、日本を舞台にした映画が作りたかった」という監督。「古い歴史や伝統と西洋的なものが渾然と存在する、いい意味で矛盾した文化に魅了されたんだ。なんでも言葉にするメキシコとまったく違う。抑えた感情表現をするだろう。父親が娘にI love youというシーンでも、日本の父親はそんな言い方はしないと言われて台詞を書き直したんだ」

東京編ではろうあ者の女子高校生が渋谷をさまよう。雑踏の中のチエコの静寂、言葉のない抑えた自己表現に監督の日本観が反映される。映像も東京の今を伝え、ビビッドだ。
「東京では一切撮影許可がおりず、警察に追われながらすべて盗み撮り。映画作りを支援する機関もなくて、日本の政府はまったくひどいな」と批判も率直だ。

作品の大きなテーマでもある9/11以後の変化に触れると語り口はさらに明快に。
「あの事件以来、この国は自由の国から、恐怖に取りつかれた軍国的な国になってしまった。移民の国なのに国境を閉ざすことで、この国のスピリットは完全に変わってしまったよ。たった一人の男によってね。パラノイアで何も見えていない。だからこの作品では、今生きる世界が、自分や家族にどんな影響を及ぼしているのかを描きたかった。政治的にではなくてね」

あの日にバベルの塔が倒壊したと?
「そう思う。彼は人の話に耳を貸さないだろう。(イラク侵攻前)国連で多くの国が反対しても、その声を無視した。今、大切なことは相手の言うことに耳を傾けることなのに」
太く深い声で、腹蔵(ふくぞう)なく語る監督は、彼の作る映画そのまま。力強く、焼けるように熱いメキシコの人だった。

"Babel"はSFのセンチュリー9とバークレーのランドマーク・カリフォルニアで3日から上映開始後、10日から拡大公開が始まる。

"Babel"の紹介文
http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20061004/1159975018