"Breaking and Entering"


写真クレジット:The Weinstein Company

試写が終わった後、若い女性が「こんなエンディングでは納得できない」と怒っていた。そうだろうか。私は納得だった。

互いの顔を見て言葉を交わさなくなったカップルが登場する。10年も共に暮す2人だが、結婚の予定はない。男は若い優秀な建築家ウイル(ジュード・ロウ)、女はクールなスウェーデン美人のリブ(ロビン・ライト・ペン)。自閉症の娘がいるリブは、病んだ娘の行動に心を奪われている。ウイルは一人取り残された気分で、リブの苦しさに無関心をよそおう。ウイルに冷たさを感じるリブだが、広がっていく彼との距離を最も怖れている。

そんな頃、ウイルの事務所に泥棒が入る。犯人を追いかけた彼は、貧しいボスニア難民の少年に行きあたり、少年の母アミラ(ジュリエット・ビノシュ)と出会う。寂し気な彼女に近づくウイル。2人は次第に惹かれあうようになるが、息子がウイルの事務所に盗みに入ったことを知ったアミラは、ウイルの接近に疑いを抱いていく。

ハリー・ポッターで有名になったロンドンのキングス・クロス駅周辺が舞台。近年開発が進み、難民が肩を寄せ合い、娼婦や泥棒がたむろする一方、若いエリートも集まるようになった。そんな変化するロンドンの風俗を巧みに取り入れ、デリケートに揺れる男女の切ない愛を丁寧に描いている。

題名の「家宅侵入罪」には人の心も含まれているのだろう。難民の孤独や娘の病いで閉塞している女たちの心にウイルは侵入しようとする。ところが、女たちは彼に心を開きながらも、子供への愛を優先する母親でもある。ウイルは似たような2人の母親の間を行き来しているのだ。

失望するほどに言葉が出なくなって行くリブだが、ウイルの情事が突破口を開く。若い女性には「納得できない」かもしれないが、最後にリブの取った行動が彼女を救った。賢い女性だと唸ってしまった。

ボスニアに行って役作りをしたビノシュの好演が印象に残る。オリジナル脚本と監督は『コールド・マウンテン』のアンソニー・ミンゲラ。ロウを使った作品がこれで3作目になる英国映画界の実力派だ。

上映時間:2時間。サンフランシスコは2月9日から公開予定。