”The Host”


写真クレジット:Magnolia Pictures

出会いがしらに「こんにちわ」と日本語で声を掛けられてビックリ。日本のコミック作家浦沢直樹の大ファンを自認する。現在全米で公開中の怪物パニック映画"The Host" の脚本を書いている時も浦沢の『20世紀少年』を片手に持っていた。

"The Host"は去年韓国で公開されて、興行成績の記録を塗りかえた大ヒット作品。カンヌでも上映され「映画祭の最高作」と世界のメディアから絶賛された。これが長編3作目、まだ三七才の若い監督だ。03年に韓国で公開された連続殺人を扱った犯罪サスペンス『殺人の追憶』が、500万人を動員する記録的大ヒットをし、一躍映画界の中心に躍り出た。

「前作がシリアスな作品だったので、なんで今さら怪物映画なんか作るのか、と言われた。韓国では怪物映画は子供向きとイメージが定着しているのでね。それがちょっと厳しかった」という。

怪物映画を作るのは、子供の頃ネス湖の怪物の写真を見て以来の夢。00年に韓国駐留米軍が、ホルムアルデヒドを川に不法投棄したことが発覚し、その事件を下地に脚本を書いた。川からヌーっと現れる怪異な怪物は、不当投棄された薬品によって突然変異的に生まれた。サイズは意外に小さい。
「ゾウやサイぐらいの大きさの方が、かえってリアリティがあると思ったんだ。予算の問題もあった。ゴジラみたいにビルを壊すとなるとお金がかかるから」と笑わせる。

目的の見えない不気味な動きを見せる怪物。この怪物を生んだ不気味な社会の影が広がる。『殺人の追憶』でとくに顕著だったが、ジュノ作品には国家権力や社会矛盾への批評的視線がある。それが彼の作品を力強いものに。
「そのことに執着してる訳ではないんだ。『殺人の追憶』は、実際に事件が起きた80年代の軍事政権が支配した暗い時代を反映している。事件は未解決のままだ。なぜ警察は犯人逮捕の能力がなかったのか? 若い女性が次々と殺されていたのに、国は真剣に解決する気があったのか、という疑問があった」

「"The Host"は、名匠によって作られた怪物映画の伝統を継承して、政治的社会的風刺のきいたジャンル映画のつもりで作った。今、昔の映画を見ると、あの時代の<怪物>は共産主義ソビエトだったことが分かる。何十年か後に"The Host"を見た人たちが、00年初期がどういう時代だったのかが分かるような映画にしたかった」

意外なエンディングについては「あの結末は初めから変わらなかった。国家や社会が背を向ける弱者がさら弱い者を助ける姿を通して、自己犠牲の尊さを描きたかった」という監督。どのようなジャンル映画を作っても、社会と人間の関係を鋭く見つめ続ける社会派という印象を持った。

次回作はフランスの映画監督らが参加して作るオムニバス映画。舞台は東京だ。「日本には大好きな俳優が一杯いる。みな素晴らしい」とここだけは英語で伝えてニッコリ。気さくな人柄が好ましい人だった。

"The Host"は、エンバカデロストーンズタウン・ツインのほか、ベイエリア各地の映画館で上映中。