"Avenue Montaigne"


写真クレジット:THINKFilm

シャルル・アズナブールジルベール・ベコーの歌声を聞いて「オーッ」と思い、サルトルを「女たらし」と一刀両断する台詞でフフフと笑う。さっくりと軽く、バターの塩気と甘みが広がるクロワッサンのような味わいの映画だ。
タイトルのアヴェニュー・モンテーニュは、シャネルやブルガリが並ぶパリの高級ブティック街。オークションハウスや劇場、コンサートホールも集まるアートの街、東京で言ったら青山あたりか。そのおしゃれな街のカフェでウエイトレスをしているジェシカが主人公。と言っても彼女は狂言回しだ。初めてやってきたパリの風景を好奇心いっぱいに眺め、カフェに集まる成功した人々の抱えるドラマを覗く。

若い恋人のいる老年の富豪が、死んだ妻との思い出の詰まったアートコレクションをすべてオークションに出すエピソードや、コンサート暮らしに窒息しそうになっている有名ピアニスト、サルトルとボーヴォアールの映画を準備しているアメリカ人監督に、自分を売り込みたい昼メロ人気女優が巻き起すドタバタなどが軽快に描かれる。ジェシカはその隙間をトレイを持って歩き回るが、『アメリ』ほど他人の人生に鼻をつっこまず、自分の恋もちゃんと見つけて…というお話。

華やかなパリの景観を背景に、60年代に大ヒットした『コメディアン』などの懐かしいフランスポップと、リストやベートーベンのピアノ曲が流れる趣向。中年観客へのサービス過剰がやや気になるが、猫みたいにノドがゴロゴロ鳴ってしまった。

3つのドラマがアッサリ描かれていて身が入らない。ジェシカを演じたフランスの人気女優セシル・ドゥ・フランスもボーイッシュで可愛いのだが、もう少し若い方が良かった、など難点もある。それでも観ている間はなぜかウキウキ。心地よい時間が流れた。

クロワッサンはパリを一歩出るとまずくなると言ったのは誰だったか。こういうチャーミングな映画はパリで育った女性にしか作れないような気がする。
監督と脚本は脚本家として経歴の長いダニエル・トンプソン。この作品でセザール助演女優賞を取った女優役のヴァレリー・ルメルシエが特におかしい。

上映時間:1時間46分。 3月23日から上映中。