"Year of the Dog"


写真クレジット:Paramount Vantage
中年の独身女性がペットと暮らしている図には負のイメージがあるようだが、実際の彼女たちはいたって充足している。男と暮らすくらいならペットと暮らす方がずっと幸せと達観し、満足げに暮らしている。「でも、ほんとうは寂しいんじゃない?」と問うのは偏見、意地悪というもの。寂しくない人間など、どこにいる?

こうした女性たちは、ハリウッドのロマンチック・コメディなどにしばしば登場。「モテない女友達」とか「犬好きの変な姉」として女性主人公の引き立て役を担ってきた。この映画は、そんな脇にいた女性を中心に据えたコメディ。着想が光っている。独身女性の揺れる心理に重ねて、誰もが何かに少しづつ偏執しているアメリカ人像を描き出し、オフビートな笑いが楽しめた。

出世にしか興味のない上司とは会話不能、月曜の朝にドーナツを買ってきて同僚にふるまう内気な秘書ペギー(モリー・シャノン)が主人公だ。ある日、最愛の犬に死なれてガックリ。憔悴の中で、ペットシェルターで働く男(ピーター・サースガード)の仲介で新しい犬をもらい、彼に犬の訓練を任せているうちに久しぶりに恋心が芽生える。ところが、彼はヘテロかゲイか、はたまたバイかも不明な男。「男運なし」と納得したペギーは、動物への愛に目覚めていく。

菜食主義者になって動物愛護で過激化していくペギー。この先どこへ行くのだろうと心配になるのだが、描こうとしているのは「独身女の寂しさ」ではない。

ペギーの周りには、結婚熱に浮かれた女友達や、ピカピカな勝ち組の弟夫婦、狩猟好きの隣人の男などがいて、彼女の人生に絡んでくる。だが、彼女はその誰とも馴染めない。結婚熱も出世熱もどこか過剰で暑苦しく感じる主人公だ。

人間社会のどこにも安息を見いだせない居心地の悪さ、微妙な他者とのかみ合せの悪さを巧みに描き出し、人間より動物が好きという女性の感覚を伝えることに成功している。

脚本/監督は、異色のゲイフィルム『チャックとバック』を書いたマイク・ホワイトで、彼の初監督作品。平凡な生活の中に浮遊する人間の不可解さを捉える才能に秀でている。
上映時間:1時間37分。4月中旬に公開予定。