"The Hip Hop Project"

ホームレスや少年院帰りなどのティーンたちを相手に「大切なことは誠実さ」と教える若いラッパー。時間に遅れない、約束を守る、学校を絶対辞めない。誠実な生き方を教えることから「ヒップ・ホップ・プロジェクト」(以下HHP)はスタートする。


押し込められた思いを言葉にし、自分で歌うラッパー少年/少女たちの作品を集めたCDを作るまでの5年間を追ったドキュメンタリー映画。小さなダイヤモンドがキラリと光るような佳作だった。

これまでラッパーの歌詞が聞き取れたことがなかったが、この映画で初めてすんなりと歌詞が聞こえた。刑務所にいる父親を思いやる心、妊娠をした時の動揺、難病で亡くなった母への思いがはっきりと聞こえ、心に届いた。

前述のラッパーは、バハマ生まれ、母に捨てられ孤児院で育ったクリス" カズィ" ロール。14才の時、母のいるニューヨークに来て問題を起こし、ホームレスになった。何でも売るハスラー暮らしの末に、HHPの母体である、ホームレスの子にアートを教える"Art Start"と出会う。ラップを通して自分の表現を見つけた彼は、自分の得た表現者のバトンを、厳しい境遇にいる子供たちに渡していこうとHHPを立ち上げた。

懸命に自分の言葉とリズムを探すティーンたちの歌詞にコメントし、資金を集め、著名人に会い、学校を周り、コンサートを開き、精力的な活動をするカズィ。誠実な青年だが、彼の真価は母と和解するくだりできわ立つ。

10年近く音信不通だった母に会い、なぜ自分を捨てたのかを聞くカズィ。だが母は明確な説明もせず、謝りもしない。感情をかなり抑えつけて生きてきた人なのかもしれない。その冷たさに耐えるカズィ。「なぜ謝ってやれないの」と迫るカズィのガールフレンド。ところがカズィは、予想外のことをする。なんと彼が母に謝るのだ。母の元に来た時に迷惑をかけたことを許してくれ、と。

彼は自分が謝ることで、母を許したのだろう。暗い過去を捨て、前進するために。ラップすることで自分を癒し、魂を磨いてきた青年の姿が眩しく、清々しい。

監督はマット・ラスキンスコット・ローゼンバーグ。製作代表はHHPの録音スタジオの資金を出したブルース・ウィリスクイーン・ラティファ

クレジット:Think Film
上映時間:1時間25分。サンフランシスコは5月11日よりメトレオンで上映開始。