"Jesus Camp"

キリスト教福音派(Evangelical)の子供たちがサマーキャンプに行って、徹底的に「神の戦士」として鍛え上げられる様子を二人の女性監督が追っている。今年のアカデミー賞の最優秀ドキュメンタリー映画にもノミネートされた。



キャンプを率いるのは元カントリーラジオのDJだった中年女性。「テロリストの国では子供の時からイスラム教を叩き込んでいるのだから、自分たちも同じことをすべき」と確信してキャンプを始めた。DJの経歴を活かした親し気な語り口で、神に背く邪悪な心の恐ろしさを語り、熱が入るとハリー・ポッターは死んでしまえ(魔法使いは神への背徳)、と説教する。

子供のほとんどは、学校に行かず親が家庭で教育するホームスクールで学習する福音派の純粋培養児たちだ。説教師たちの巧みな語りや「中絶は人殺し」の説教で泣き、失神する子供たちが続出。親とまったく同じ口ぶりで信条を熱く語り、神の言葉を聞く興奮に酔いしれる子供たちの姿が衝撃的だ。

福音派プロテスタントの一派で、自分の罪を悔い神を受け入れ、生まれ変わった者だけが天国に行けることになっている。彼らは聖書の内容を文字通り受け入れ、宇宙は神の創り出したものと信じ、進化論は嘘だと言う。公共教育を認めないのはそのためだ。近年になって信者数を飛躍的に延ばし米国全人口の38%、一億人を占め、ブッシュを支持する人の53%が福音派。驚くべき数字だ。

人には信教の自由がある。親の宗教を子供に教えることも自然なことだ。が、彼らの問題は、充分な思考能力を持つ以前の子供たちに、神の教えと称して人権を無視した善悪意識を刷り込んで行く点だ。彼らが「邪悪」とやり玉に上げるのは、中絶と同性愛。この「邪悪」のだめ押しはキャンプで何度も繰り返される。薬屋の看板みたいなブッシュの等身大くり抜き写真が壇上に立てられ、「大統領に神のご加護を」と子供たちが祈りを捧げるというシーンまで登場する。実際にキャンプを運営している人々の質素で素朴げな風貌とは裏腹に、背後に大きな利害団体の影が感じられるのはこういう時だ。

子供たちは単純に親の愛情が欲しくて期待どおりの言葉を語り、行動をしているに過ぎない。その子供の自然な欲求を、一定の政治的型にはめて、保守派の利害に繋げていくやり口は汚い。教義を上手に使いこなし、自信をつけて「神の戦士」ロボットと化した子供たちをみていると、この子たちは生涯この刷り込みから逃れられないだろうと暗澹となる。それはまた、自分自身が親から刷り込まれた意識や価値観からどれほど自由なのかという問いにも繋がり、カルトの洗脳キャンプを観ているという以上に考えさせられる映画体験だった。

最後におまけ。この映画が劇場公開された昨秋、映画にも登場する米国福音同盟の代表テッド・ハガードと関係のあった男娼が、彼との同性愛関係を暴露した。ハガードは反同性愛の急先鋒で、毎月曜ブッシュに聖書を読んでいたいう福音派の大物。3 週間のカウンセリングを受けて完全に異性愛者になったと最近声明を出したが、嘘ばっかりついてると地獄に落ちるんじゃないのか。

上映時間:1時間27分。日本での上映は未定。


クレジット:Magnolia Pictures.