"The Rape of Europa"


略奪を怖れて展示品を隠し、額だけが残ったルーブル美術館、1939年。
Photo Source: Lynn Nicholas

ナチスは第二次大戦中、欧州各国にある美術品の五分の一を盗んだ。始めはユダヤ人の画廊や個人宅から取り上げ、侵攻したポーランドなどの国々の美術館へと魔手を広げた。
彼らは戦前から組織的に略奪を計画しており、盗品はヒットラーや側近のハーマン・ゲーリングなどに私的に所有されるか、隠されるか、売り払われるかして散逸(さんいつ)し、いまだにその行方がわからない作品も多いという。

この映画はナチスのどん欲な略奪の過程と、各国美術館の必死の防衛エピソードなど、貴重な写真やフィルム、美術館関係者などのインタビューなどで再構成したドキュメンタリー映画だ。95年に出版され全米批評家協会賞を受賞した『ヨーロッパの略奪:ナチス・ドイツ占領下における美術品の運命』の内容を下地としている。映画にも登場する著者のリン・ニコラスはこの本を書くために十年以上を費やし、監督たちも制作に五年以上をかけた労作中の労作だ。

戦争末期に散逸した美術品が、連合国側から送られたモニュメント・メンと呼ばれる若い米国の美術専門家たちの丹念な調査の結果、戦前の所有者に手元に還っていった経緯も描かれる。これは欧州戦の中でも米国が美談として誇りたい部分だろう。作り手の視線にもそれが感じられ、暗い題材を明るく締めくくっている。

ただ、その美談を強調されると、イラク戦争の開始直後にイラク国立博物館が略奪され、人類の貴重な遺産メソポタミア文明の発掘物など十数万点が散逸したことが思い出されてならない。あの時は、油田を守ったが博物館を守らなかった米軍に非難が集まった。政権の違いということなのだろうか。

子供の頃に、京都に空襲がなかったのは米軍が日本の文化財がを守ろうとしたから、という「美談」を聞かされたことがある。ところが近年『日本の古都はなぜ空襲を免れたか 』(吉田守男著)という本が出て、その説を覆している。進駐軍プロパガンダだったというのだ。もしそれが真実だとすれば、欧州では西洋美術の散逸を防いだ米国だったが、東洋美術の破壊はアリだったということになる。戦争を美談で飾ると、かならず欺瞞(ぎまん)が見えてくるから面白い。

脚本/制作/監督はリチャード・バージ、ボニー・コーヘン、ニコール・ニューンハム。三人とも地元サンフランシスコのフィルムメーカーだ。ナレーションは女優のジョアン・アレン
上映時間:1時間57分。18日よりエンバカデロで上映開始。

公式サイト(英語):http://www.therapeofeuropa.com/