"La Vie en Rose"


写真クレジット:Picturehouse Films
自然な演技に定評のあるフランスの女優の中に、たいへんな演技派がいた。マリオン・コティヤール、まだ30才を出たばかりの人。


去年ラッセル・クロウが主演した愚作 ”A Good Year" に平凡な役柄で出ていた人だが、この作品で見事なメイクと猫背で登場した時は、同じ女優とはまったく思えなかった。

伝説的シャンソン歌手エディット・ピアフの生涯を、彼女の神がかり的名演で見せ切り、褒め過ぎかもしれないがジュリエッタ・マシーナが演じている錯覚に落ち入った。

もう一方の主役であるピアフの歌声も圧倒的だ。哀感の中に力強さがあり、喉を鳴らすような独特な歌い方が波動のように心に響きわたる。ピアフほど、フランス語という言語の持つ美しさを知りつくした魂の歌い手はいないのではないだろうか。タイトル の"La Vie en Rose" (『ばら色の人生』)は、ピアフが歌って世界的な大ヒットとなったシャンソンの名曲だ。

1915年にパリで生まれ、貧しさのどん底から見いだされ、世界で一世を風靡したピアフが47才の若さで亡くなるまでを描いている。が、ハリウッド的伝記映画を期待すると肩すかしを食らうだろう。

ピアフは小柄な人だったが、フランスのナチ占領時代にレジスタンスを助けたり、名女優デートリッヒとの長年の親交や、モンタンやアズナブールらの若手シャンソン歌手を見い出すなど、ドラマにこと欠かなかった女傑としても知られる。それらのエピソードを追うだけでも何本かの映画が出来そうだが、この映画の焦点は、彼女の厳しい生い立ちと、ごく身近にいた人々との私的な関係に向けられる。

売春宿で育った幼年期、街角で歌った少女期、その後の成功の甘さと孤独、最愛の恋人をおそった悲劇…。ピアフのシャンソンはどこから生まれ、彼女はその一曲一曲をどのような思いで歌ったのか?

人生と歌が渾然としたピアフのバラ色とはほど遠い生き方の中に、一人の芸術家の生みの苦しみと喜びを見いだそうとした異色な作品。愛と芸術を最上のものとする真にフランス的な映画だと言える。

出演は他に、ジェラール・ドパルデューエマニュエル・セニエなど。監督・脚本:オリヴィエ・ダアン
上映時間:2時間20分。サンフランシスコは、6月8日からクレイシアターで上映開始。

英語公式サイト:http://www.EdithPiafMovie.com