『パプリカ』


写真クレジット:Sony Pictures

宮崎駿監督に次いで、海外でも人気の高い今敏監督のアニメーションの最新作。原作はSFファンタジー文学の巨人、筒井康隆の同名の小説で、筒井自身からアニメ化を依頼されて制作したという。
極秘に研究がされていた精神治療装置DCミニが、何者かに盗まれる。この装置は人の夢の中に入りこんで治療を行うという画期的なもので、心理セラピストの千葉敦子が患者の夢の中に入り、パプリカと称する少女になって患者の悩みを見つけていくというものだった。

悪用されれば人格破壊のの怖れもある装置。千葉と装置を発明した時田の二人は犯人探しを始める。

しかし、DCミニはすでに千葉や研究所員の意識を侵し始めていた。使用頻度が増えると装置をつけなくても人の意識に入り込むことができるという予想外の威力があったのだ。犯人によって意識に侵入された人々は、夢と現実が混じり合った狂乱状態に落とし込まれていく。

物語は複雑に仕組まれた犯人探しを中心に進んでいくが、その間に繰り広げられる侵された意識をファンタジーとして見せていく部分が見せ場だろう。滑らかなアニメに定評のある今作品ならではの、華やかに乱舞するイメージが画面から奔流のように流れ出す迫力はさすがだ。

ただ、人の夢や意識の中に入りこんで支配するというコンセプトは、『マトリックス』の大ヒットの後ではSF的新鮮味が感じられない難がある。SFはコンセプトの新しさが命だからだ。

また『千年女優』や『東京ゴッドファーザーズ』で、日本のアニメを大人向けの上質なエンタテイメントに引き上げた今監督だが、この作品では男性向けコミック雑誌のような娯楽性重視の表現が見られる点も気になった。

パプリカという少女の媚態や、彼女の身体を打ち破っていく犯人のやり方などに、男性観客への「サービス」という安易で旧態依然としたシッポがチラつく。

ハダカを見せなくとも大人のアニメが作れることを証明した今監督だけに、表現力の後退を感じずにはいられない。筒井が原作を書いたのが93年。14年前のSF小説を下地にしたことが、落とし穴だったのだろうか。

英語字幕付き。上映時間:1時間30分。サンフランシスコは8日よりサンダンス・カブキとUAストーンズタウンで上映開始。