"Steel City"


写真クレジット: Truly Indie

父は服役中、母は再婚。荒れる兄、先のない仕事、オンボロトラック…。若い主人公をかこむ風景は、アメリカのインディ映画の定番ばかり。またしても異口同音の話かと思ったら、意外なほど良質な作品だった。
寒々しい中西部、製鋼所でなりたつ町で生涯を生産現場で働き、仕事が終わればバーにたむろする男達の物語。地味な暮らしに飽きたらず家族を捨てた男が、次世代の若い男に何を手渡すのか。過ちの責任をどのように取るのか。そんな真摯な問いかけが聞こえた。

交通事故で始まる息苦しい導入部。女性が死んだと告げられ、衝撃を受けるPJ(トーマス・ギーリー )。飲酒運転をしていた父カール(ジョン・ハード)が逮捕される。父と二人暮らしだったPJは一人残され、再婚した母の円満な家庭や、酒浸りの兄ベンを訪ねたりしてフラつく。

彼に落ち着きがないのは、秘密があるから。そんなPJを引き取る伯父ビック。彼も怒りを抱えた気難しい男で、PJは反発する。

保釈中の父が前妻を訪ねる。夫や息子たちの人生から距離を置いた女は、動じない。冷たいのではなく、男達の身勝手から彼女が学んだスタンスだ。男は自分の汚したテーブルを自分で片付けねばならない。女は完全に手を引いたのだ。

フラッシュバックで描かれる父の家出シーン。妻と息子二人を捨てた父の過去。そして、出産したばかりの妻に逃げられた兄の現在。女たちに見捨てられた一族の男たちは、このまま負の系譜に押しつぶされていくのか。ナイーブなPJの危うさを救うため、父は悔恨を込めて厳しい選択を自分に課すのだった。

監督はブライアン・ジュン。26才の時に作ったデビュー作だ。何年もかけて書いた脚本をもとに、友人や家族に資金を借り、自分の育った製鋼の町で、町の人々に助けられながら22日間でこの映画を撮った。自分の知っている世界をしっかりと描き、最後を希望で締めくくるインディらしいスピリットにあふれた秀作。

PJのガールフレンド役はTV番組の "Ugly Betty"で人気が出る寸前のアメリカ・フェレラ。確かな存在感は大物の器だ。

上映時間:1時間35分。

英語公式サイト:http://www.steelcitythemovie.com/base.html