"A Mighty Heart"


写真クレジット:Paramount Vantage
02年にパキスタンで誘拐され、残虐な方法で殺された米国人記者の事件を妻の立場から再現した映画で、観ながら居心地の悪い思いをした。"United 93"を観た時もそうだ。
これらの事件を題材に劇映画を作ると、多くはサスペンス映画としての側面を持つ。だが、サスペンスがうまく描けていればいるほど、一体自分は何を期待してこの映画を観ているか?という疑問がわいてくる。911以来、すっかり変わってしまった世界の延長線上に生きているという実感があり、そこから派生した事件をサスペンスとして楽しんでどうするんだ、という思いがあるからだ。

この作品もそんな思いで観たが、観終わってもビシッと来るものが無く、やはりただのエンターテイメントだったのかと得心。「憎しみと報復ではなく異文化理解こそ必要」というまっとうなメッセージは伝わってくるものの、妊婦の身で生死不明の夫の安全を願い続けた主人公の実在感が薄く、心に響くものがなかった。

原作は、殺害されたウォールストリート・ジャーナル記者の妻マリアンヌ・パール書いた『マイティ・ハート―新聞記者ダニエル・パールの勇気ある生と死 』。ジャーナリストの彼女が、事件の発生から経過を克明に記録し、事件後の思いを綴った本を下地にしている。

マリアンヌは、夫の誘拐後も感情的になって騒ぎ立てることもなく、彼の死が判明した後も、憎しみに魂を奪われまいと自律を保ったアッパレな女性。この主人公をフランス語訛りをマスターしたアンジェリーナ・ジョリーが抑え気味に演じている。

国連親善大使をしたり、他国の子供を養子にしたりと彼女もアッパレな女性で、何を演じてもジョリーの映画にしてしまう輝ける大スターでもある。そんなジョリーのやや冷たいイメージが主人公にダブって、遠い存在に見えてしまったように思う。

製作代表はブラピで、彼の前妻が演じるはずの役をジョリーが取ったと激怒、というゴシップ付きで注目度も満点。ハリウッドの手が触れると、対立する世界の実像も異文化理解も変質し、ただのお題目にしか思えなくなるからおかしい。

監督は、パキスタンを舞台にした政治性の強い作品 "In This World" と"The Road to Guantanamo"の手腕が買われたマイケル・ウィンターボトム。前2作の方が圧倒的に良い。
出演は他にダン・フッターマンなど。
上映時間:1時間48分。22日より上映中。

英語公式サイト:http://www.amightyheartmovie.com/