"Ghost World" (2001年)


写真クレジット:MGM/UA
お化けは出てこない。見るもの聞くもの人工的で死んでる世界。そんな感覚を持った18才の女の子が出てくる映画だ。日本語キャッチフレーズは『ダメに生きる』。ゴーストの世界なんだから、ダメに生きるのがクールって、ことなのだろう。
海辺の甘い恋も、グラウンドで流す敗北の涙もない、高温なドラマゼロな非青春映画。でも重くも暗くもないからご安心を。ただただ低温なハイティーンの感じがよく描けていてナケルのだ。もちろん、涙なんて一滴も出ないけど。

主人公は、高校を卒業したばかりのイーニド(ソーラ・バーチ)。古いインドのミュージックビデオで踊ったり、誰も着ないようなショッキングな服が好きという変わった子だ。

大親友のレベッカスカーレット・ヨハンソン)とダイナーに入り浸って、シニカルな人間観察をしてはヒクヒクと笑いあってダラダラ過ごす毎日。彼女とアパートを借りて家を出る計画はあるのだが、なかなかエンジンが掛からない。

そんな頃、稀少ブルースレコードの蒐集をしている中年のシーモアスティーヴ・ブシェミ)と知り合って、イーニドは彼の年季の入ったオタクぶりに同類を見つけた思い。彼のためにガールフレンドを見つける手伝いに熱中してる内に、さっさと仕事もアパートも見つけたレベッカから、もう一緒にやっていけない、と告げられショックを受ける…

あらすじを書いても、この映画の面白さは伝わらない感じになってきた。話の面白さで見せるというより、イーニドという子供以上大人未満な女の子のダルい感じと辛辣な物言い、凝ったデテールに面白さを見つけるタイプの映画だからだ。イーニドたちが50回も取り替えるファッションがカッワイイ、なんて楽しみ方もある。

感覚だけはピンと尖って「みんなバッカじゃない」と思い上がっているイーニド。親も教師もブベツの対象、これから先、社会のルールとやらを守らねばならない未来にもゼツボーだよ、って思いだけは鮮明。そのくせ、無目的な自分が不安で、ひたすら理由のない焦燥感もある。そんな時期を過ごしたことはないだろうか?

イーニドは、現実適応型のレベッカから関係を切られ、取り残されたように感じる。いつまでも遊んでいたいのに、夕方になると家に帰ってしまう遊び仲間。どうして大人なんかになりたいの? みーんな死んでんジャンって、小さく叫んでも誰にも聞こえない。ここはゴースト・ワールドなのだ。

観る人にとっていろいろな解釈のできる摩訶不思議なエンティングも、よろしい。イーニドはゴースト・ワールドを離れ、どこへ行ったんだろう。

この原稿を書こうと思って近所の本屋に行き、原作マンガはどこ?って店員のオニイちゃんに聞いたら、"Cool!' と一言。本を見つけてくれた時には「映画の方もおもしろいぜ」って推薦までしてくれた。「知ってるよ」

男女に関係なくイーニドに自分を重ねる人は多く、大人になりたくない大人もいっぱいいて、みな低温に生きている気がする。大人な人たちから見ると、そういう連中の方がゴーストに見えるのかもしれない。この世は百鬼夜行だ。

原作はシニカルな作風が人気のオルタナティブ・コミック作家ダニエル・クロウズの同名コミック。監督はコミック作家ロバート・クラムドキュメンタリー映画で絶賛されたテリー・ツワイゴフ。作中流れる渋いブルースの曲は、ツワイゴフ自身が何年もかけて見つけ出した古く稀少なものばかりで、聞きどころだ。

製作にあのジョン・マルコヴィッチも加わっていて、S. ブシェミを始めとしてニオウようなオジさんたちの作った映画だが、臭みはまったくないので安心して食べられます、って推薦の仕方がこの映画に向いている。
上映時間:1時間51分。


日本語公式サイト:http://gw.asmik-ace.co.jp/