"The Bourne Ultimatum"


写真クレジット:Universal Pictures

たった今起きた爆発現場から逃れ、複数の警官に追われる主人公ボーン。彼は暗殺者に追われる仲間の女を捜している。舞台はモロッコの港町タンジール。

狭い路地と連なる低い屋根の上を、疾風のごとく走り、飛びながら女を捜すボーン。彼を追う警官。逃げる女。女を狙う暗殺者。別々のターゲットを追う4つの点が移動する複雑な追跡シーン。それを秒刻みのカット割りで見せて行くスピーディーで洗練された演出の冴え。これこそがアクション映画の醍醐味だ。

無駄を排し、一点の狂いもなく計画を遂行し、ターゲットを倒す暗殺者ジェイソン・ボーンの非情な姿を描いたシリーズの3作目。

今回は、記憶を失い組織を離れたボーンの抹殺を狙うCIAの陰謀を暴き、自分のアイデンティティを取り戻そうと、ニューヨークの本部に迫る。

原作は米国の作家ロバート・ラドラムの最高作『暗殺者』で始まるスパイ小説シリーズ。監督は二作目『ボーン・スプレマシー』と同じポール・グリーングラスで、去年話題になった『ユナイテッド93』でアカデミーの監督賞にノミネートされた英国の実力派だ。

のっけから飛ばしまくる作風は今回も健在。舞台をモスクワ、パリ、ロンドン、スペイン、モロッコと移動しながら、最新鋭の監視システムを駆使してターゲットを追うCIAと、知力と身体力だけでその裏をかくボーンのスーパースパイぶりを対比させて極上の面白さだ。

とりわけ、ロンドンのウォータールー駅を舞台にした追跡シーンのスリリングな組み立てが秀逸。監視カメラの動きに合わせて、人ごみに身を隠すボーンはあたかも森にひそむ野生動物のようだ。

携帯電話を傍受し、世界の空港や駅などに張り巡らされた防犯カメラや衛星カメラを使って、瞬時に移動するターゲットを捉えるCIAのグローバル監視システムのダークな仕事ぶりもたっぷり見られる。

911事件以降、テロ対策を名目に世界に増殖する監視システムの恐ろしさ。アクションを堪能しつつ、今やプライバシーなど死語の時代なのだと確信して、帰って来れれば上出来の映画体験ではないだろうか。

出演:マット・デイモンジュリア・スタイルズジョーン・アレンデヴィッド・ストラザーン
上映時間:1時間52分。各地のシネコン等で上映中。

英語公式サイト:http://www.thebourneultimatum.com/