"No End in Sight"


ポール・ブレマー(写真左)とジェイ・ガーナー(写真右)。
写真クレジット:Magnolia Pictures

今や内戦状態といわれるイラクの現状は、どのようにして生まれたのか? その原因を米国の占領政策の失敗に置き、証明していく緻密なドキュメンタリー映画だ。今年のサンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞している。


03年3月のイラク侵攻後、ペンタゴンの復興人道支援局(以下ORHA)が統治を引きつぎ、フセイン派を残しつつ緩やかな新体制作りを進めようとしていた。しかし、フセイン体制の性急な一掃を狙ったブッシュ政権は、1ヶ月もたたないうちにORHAのガーナー局長を解任し、連合軍暫定局(以下CPA)を立ち上げた。

CPAを率いたのは軍隊経験のない元外交官のポール・ブレマー。彼は就任早々フセイン政権を支えた旧バース党員を公職から追放し、軍隊を解体した。これによりイラクの国家機能が停止し、多くの失業者が生まれた。また、膨大な数にのぼる旧イラク軍の武器弾薬も放置されたため、CPAの統治を不満とする軍人や公務員などが略奪し、武装勢力を形成していった…。

侵攻後一ヶ月で急変した当時の占領側の内部事情を、ガーナー局長を始め、バグダッド担当調整官バーバラ・ボーディンや、前米国務副長官のリチャード・アーミテージなどの大物政府高官からジャーナリスト、軍人、学者などの証言をもとに明らかにしていく。
製作/脚本/監督をしたのは政治学の博士号を持つ学者チャールズ・ファーガソンで、これが初監督作品。生々しい戦地の実写画像をはさみながら、200時間に及ぶインタビューを綿密に整理し、政治学の論文のような内容を政治オンチにも分かるような映画作品にした手腕は見事。感情を排したキャンベル・スコットのナレーションも効果的だ。

気になったのは、解任された軍人派ORHAのCPA批判という側面があったこと。ペンタゴン主導で占領統治を「スムーズ」にしていたらイラク戦争は良しだったのか、という大疑問が残る。戦争がなければ戦後処理も占領政策も存在しない訳だから、作り手が戦争そのものをどう捉えているのかという根本が見えない不審もあった。

「超」のつく優秀な政治学者のようなので、次期政権でペンタゴンのアドバイザーをやっても不思議ではない。自分の政治的信念を貫く人というよりディベートの達人が作った映画という感が否めなかった。

上映時間:1時間42分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターで上映中。

英語公式サイト:http://noendinsightmovie.com/