"The Motorcycle Diaries"

(2004年、邦題『モーターサイクル・ダイアリーズ』)


写真クレジット:Focus Features

見るもの、聞くものがすべてが、肌をとおしてビンビンと体の中心、ハートに響いてくる時がある。旅をしてる時などは特にそうだ。


外界に向けて大きく広げた感性で捉える世界の風景は、人によって様々。自分を囲む世界に何を見るのかで、私たちの生き方は決まっていく。受動的に世界を受け入れる人もいるだろう。能動的に世界に働きかけ、変えようとする人もいる。そういう生き方を貫いた人は、幸せだ。そんなことを思いながら観た。

アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスの愛情ある家庭で育った23才の医学生が、南米大陸を縦断する大旅行に出かけた。目的は、本でしか知らない南米を自分の目で見るため。同伴したのは、親友と彼が愛するオンボロ・バイク。荷物の中に大切な恋人にあげるための子犬まで潜ませ、荷物の重さで傾いたバイクに夢いっぱいを乗せて、旅に出かけた。

この若者の名前は、エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ。チェ・ゲバラの愛称で親しまれたキューバ革命を率いたゲリラの指導者の若き日の姿だ。時は1952年の秋。

裕福な家に生まれた家族思いのエルネストは、喘息持ちで、ダンスが苦手。おっとりとした彼が、酒と踊り、そしてきれいな娘が大好きな7才年上の楽天家アルベルトの誘いで旅に出た。当然ながらトラブルはあとを断たない。パタゴニア、チリ、ペルー、コロンビア、ベネズエラを訪ねる6000キロを4ヶ月で回る予定が、度重なるバイクの故障や、雪の降りしきるアンデスの山越えなどのトラブル続きで行程は13,000キロと伸び、旅は8ヶ月も続いた。

口八丁手八丁で素朴な人々をケムに巻くアルベルトと、嘘のつけないクソ真面目なエルネストの無銭旅行は、怒鳴り合いの連続ではあったが、明るさと好奇心だけは失なわなかった。彼らの旅が、南米各国に生きる貧しい人々や病んだ人々との出会いの旅へと変容する中で、エルネストは次第に思索的になっていく。彼は大きな瞳で何を見て、何を感じたのか。

南米大陸の現実に衝撃を受けた感受性豊かな主人公の表情を追いながら、自分の生きるべき道を見いだして行く様子を自然に描きだして、観る者の感性を刺激する。主人公が後の革命家ということを忘れて、一人の若者のみずみずしい感性のありようを共に体験する感覚が、ともかく心地よい映画だ。

エルネストを演じたラテンアメリカの若きスター、ガエル・ガルシア・ベルナルと、彼と好対照な明るさを振りまいたアルベルト役のロドリゴ・デ・ラ・セルナの好演のたまものだろう。

エルネストの真価は、旅の終わりでボランティアをしたハンセン病院の日々に顕著に現れ、作品のクライマックスとなっていく。ゲバラと言うと、ベレー帽に髭をたくわえた精悍な闘士の顔がまず浮かび、豪胆で男前の革命家というイメージがあるが、彼の類いまれな資質は、人への共感力、優しさであった、という作り手の解釈が伝わる。真に優しくなければ革命家にはなれない、ということなのだろう。

彼はキューバ革命の後、コンゴボリビアの革命組織と共に戦い、最後はCIAに支援されたボリビア政府に捕まり銃殺されている。享年39才。優れた感性で感じ、見たものを信じて生きた一生だったに違いない。

脚本は、ゲバラが書いた『チェ・ゲバラ、モーターサイクル南米旅行日記』と、同行したアルベルト・グラナードの書いた『トラベリング・ウイズゲバラ』を下地に、プエルトリコ人のホゼ・リヴェラが書いた。監督は『セントラル・ステーション』で世界の注目を浴びたブラジル人のウォルター・サレス。製作総指揮はロバート・レッドフォードという国際的な作品で、カンヌ映画祭で高い人気を得た。

エンディングにもあっと声が出る演出が凝らされて、思わず涙が。友情の大きさに胸が熱くなってしまった。
上映時間:2時間6分。

日本語公式サイト:http://www.motorcyclediariesmovie.com/