"Into the Wild”

写真クレジット: Paramount Vantage

どこか遠くに行ってみたい。 社会生活のルールや、家族の期待から自由になりたい。真の自由とは、幸せとは何か。そんな問いと情熱にかられて旅に飛出す人たちは男女に関係なく、今も世界中にいるだろう。

この映画は、90年から2年にわたって自由への夢を追ったクリス・マッカンドレスという実在の米国青年の姿を描いている。

1997年に出版され、ベストセラーになったジョン・クラカワーの同名ノンフィクション(邦題『荒野へ』)を下地に、 ショーン・ペンが脚本/監督。演技派俳優として知られるペンが、雄大な米国の大自然を背景に、若者の魂の放浪を生き生きと描き出して、監督としての力量を充分見せつけた感動作だった。

裕福ではあったが夫婦喧嘩の絶えない家庭で育ったクリス(エミール・ハーシュ)は、優秀な成績で大学を卒業後、突然、家族との連絡を断ち一人旅に出た 。IDやソシャール・セキュリティ・カード、現金までも燃やし、大きなバックパックを背負って無銭旅行が始まる。

行程のほとんどは歩きとヒッチハイク。ある時はカヤックに乗ってグランド・キャニオンを下り、ある時は鉄道にただ乗りしながら、アラスカに行きたいという目的を固めていく。

92年の4月、ついにアラスカの原野に徒歩で辿りつくクリス。雪に埋もれた原野で一台の廃バスを見つけ、住み着き、そこで彼の生存をかけた過酷な日々が始まった…。

旅の先々でヒッピーのカップルや、孤独な退役軍人の老人などと出会い、彼らの優しさに助けられ、彼らにも強い印象を残していった好青年クリス。知性と体力に恵まれた読書好きの若者が、一瞬一瞬の中に生の喜びを見いだそうとする姿が眩しく、その映像に重なる妹の回想が裏腹の彼の心の痛みを伝える。

社会生活に深い絶望を抱えていた彼の本当の旅は、心の中にこそあったのだろう。衝撃的なエンディングに、人はなぜ生きるのか、という作り手の渾身の問いがあるように思えた。

バール・ジャムのエディ・ヴェダーの主題曲も映画のスピリットを伝えている。

出演は他に、マルシア・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハートヴィンス・ヴォーンキャサリン・キーナーなど。

上映時間:2時間33分。サンフランシスコはメトレオンとカブキシネマで上映中。

英語公式サイト:http://www.intothewild.com/