"Things We Lost in the Fire"


写真クレジット:DreamWorks Pictures

最愛の人が殺されたら?、というテーマの映画がこの秋多く公開されている。

ジョディ・フォスターの"Brave One"に始り、ケビン・ベーコンの"Death Sentence"、ホアキン・フェニックスの"Reservation Road"など。どの作品でも主人公たちは愛する者の命を無意味に奪われ、絶望の淵から報復への道を歩み始める。

犯人を殺してやりたい、という気持ちは分からぬはないが、こう何作品も復讐ものが続くと、ゲンナリだ。現実の被害者家族は、復讐を計画するどころか、魂を抜かれた日々を過ごしているのではないか。この映画の女性主人公も、ぼう然としてとっぴな行動に出る。

夫が事件に巻き込まれて殺された。だが、その現実を受け入れられないオードリー(ハル・ベリー)は、夫の親友でヘロイン中毒のジェリー(ベニチオ・デル・トロ)を自分の家に住まわせる。ボロボロになったジェリーを助けるつもりなのだが、無意識の期待があった。

オードリーの「好意」を受けた男は、彼女と子供たちが望む夫/父の役割を恐る恐る演じながら健康を取り戻していく。再スタートを切る希望すら持ち始めるのだが、コトは暗転。オードリーは突然怒りだし「なんで(死んだのが)あなたではなかったの?」という残酷な言葉を投げつける。

夫の死を拒絶する女の硬直した心と身体、混乱とエゴイズムを見つめる視線が覚めている。主人公二人の目や口元の大接写が、逆に観る者の感情移入を阻んでいるのだ。リッチで美貌の女に振り回された男がお気の毒、と斜(しゃ)に構えた見方をしたくなるほどで、べっとり被害者家族の悲嘆に寄りそう前述三作品とは異質な映画世界だ。

ジェリーは消え、再びヘロインに手を出して行く。はたして、二人は夫の死と中毒というそれぞれの闇から歩き出せるのか?

監督は、デンマークのスザンネ・ビア。"After the Wedding" や "Brothers"などで複雑にねじれた夫婦/家族関係を描いて、世界に飛び出してきた気鋭の女性監督だ。この作品で初めて米国映画に挑戦。人気俳優を使いこなし、復讐などでは癒されない喪失の苦しみをボールドに描き出している。

上映時間:約1時間59分。ベイエリア各地で19日より上映開始。

英語公式サイト:http://www.thingswelostinthefire.com/