"Michael Clayton"と"Rendition"


写真クレジット:Warner Bros.
政治サスペンスものの悪玉は、男と相場が決まっていた。ジーン・ハックマンジャック・ニコルソンなどが得意とする役どころだ。政府中枢や大企業、巨大法律事務所などを舞台に、邪悪な陰謀を巡らせ、不法行為の証拠隠滅を図る。


そんなことができるのも男達が権力の頂点に立っていたからで、女達は彼らの秘書か妻、愛人という役回りだった。しかし、女性の大統領候補が生まれるかもしれない現在、女が巨悪に手を染めても少しも不思議はないだろう。

今月公開された政治サスペンス、ジョージ・クルーニー主演の "Michael Clayton"(監督・脚本:トニー・ギルロイ)と豪華キャストで見せる"Rendition"(監督:ギャヴィン・フッド)で、悪玉を演じたのが共に女だったというのも、そんな時代を反映している。

"Michael..."では、巨大企業の新任CEO役をティルダ・スウィントンが、"Rendition"ではCIAのテロ対策長官役をメリル・ストリープがそれぞれに演じて、強烈な印象を残した。

彼女たちは、セックスを利用したり、ただ性悪だったりする従来の悪女像とはまったく異なり、企業利益や対テロ戦争という大義のもと、平然と汚い仕事を指示する仕事人として描かれている。

作品としては、"Michael..." が断然良くできている。スウィントンの演じたCEOは、自社商品の致命的欠陥を暴く証拠をもみ消そうと、証拠書類を握る弁護士らを始末しようとする。女という記号よりも、30億ドルの民事訴訟を抱える小心者が抱えた心理的重圧がよく描かれて、ストリープの演じた悪玉よりも複雑で面白い。


写真クレジット:New Line Cinema

"Rendition"は、CIAの秘密活動 "Extraordinary Rendition"(特例拘置引き渡し)を描いている。旅行中にテロ容疑で拉致され、裁判もないまま第三国に送られ、そこで拷問による自白を強要された男性の事件を軸に話が進む。

ストリープは優雅にティーカップを持ちながら、拷問を電話で指示する役どころ。その生まれた時から持っているような権威的態度、面の皮まで厚くしたのではと思わせる演技はさすがだが、冷酷さが一面的でつまらない。

この一面性は作品全体を覆い、ブッシュ政権の対テロ政策に警鐘を鳴らす制作意図を台無しにしている。被害者を拷問から救うのが良心的米国人であるという結末も、いかにも英雄作りが得意なハリウッドという感じで白々しい。

脂肪を蓄えたスウィントンの胴回りや、ふてぶてしいストリープの口元。権力を手に入れると女も男と同じ風貌になるな、と妙な感慨をもった二作品だった。
"Michael Clayton"と"Rendition"の上映時間は共に2時間、市内主要シアターで上映中。

"Michael Clayton"英語公式サイト:http://michaelclayton.warnerbros.com/
"Rendition"英語公式サイト:http://www.renditionmovie.com/