"Lions for Lambs"


"Lions for Lambs"Comments" 写真クレジット:United Artist

トム・クルーズメリル・ストリープロバート・レッドフォード(監督も兼任)という豪華な配役で、アメリカの政治、メディア、教育の現状に挑戦的な疑問を投げかける意欲的作品だ。
次代の大統領と目される上院議員のアーヴィング(トム・クルーズ)は、テレビジャーナリストのロス(メリル・ストリープ)をオフィスに呼びつけ、 アフガニスタンでの完全勝利に繋がる新戦略があるからニュースにしないかと持ちかける。勝つか負けるかの瀬戸際だと檄(げき)を飛ばすアーヴィングに、新戦略よりも撤退すべきでは、と問いかけるロス。

疑念を抱いて取材を終えた彼女は、かつてアーヴィングを政界の新星と報道した自分の過去、ひいては現政権の政策や戦争を無批判に報道してきたメディアのあり方に大きな疑問を抱いていく。

同じ時、有名私大で教える教授マレー(レッドフォード)は、 裕福で優秀だが授業に出ない一人の学生と、彼の理想も夢もない状態について語りあっていた。マレーには気に掛かる二人の教え子がいたのだ。貧しい環境から大学で学ぶ機会を得たアフリカ系とラテン系の若者で、二人は純粋な気持ちから軍隊に志願。アフガンでアーヴィングの言う起死回生の作戦に参加していた…。

三大スターのパワーで観客を集め、アメリカの病根を提示しようとしたレッドフォード監督らしい良心的な作品だ。目新しい視点はないが、政権に追随したメディアの責任や、自分の利害しか考えない学生を大量生産する大学教育のあり方などを指摘した点は評価したい。が、映画作品として上出来とは言えない。

提示したい問題点が山ほどあるのは分かるが、ディスカッション場面が長過ぎて、三カ所で進行するドラマが一つの物語として立ち上がってこないのだ。新戦略の実態も明確に描かれないため、アフガンにいる二兵士が直面する事態の悲劇性が胸に迫ってこない。論議過多の脚本を、映像的に見せられなかった演出の失敗だろう。

見どころは、メリル・ストリープトム・クルーズの共演場面。政治家とジャーナリストが機智に富んだ対話バトルを展開し、アクション場面よりもスリリング。自信たっぷりに熱弁をふるうトム・クルーズは、このままで共和党の政治家になれそうだ。空疎な論議も熱く語れれば政治家の体裁は整う。そんな実態を図らずも証明してくれたのは、この映画のささやかな功績だったかもしれない。

上映時間:1時間28分。9日より劇場公開中。

"Lions for Lambs"Comments"英語公式サイト:http://www.lionsforlambsmovie.com/