"Persepolis"


"Persepolis" 写真クレジット:Sony Pictures

フランスから来たユニークなアニメーション。最近のアニメは超リアルな3Dが全盛だが、この作品は版画的な白黒モノトーン。インパクトのある画像だが、洗練された絵柄と愛らしいユーモアが魅力的な作品だ。
内容も激動するイラン情勢を背景に、抑圧的な時代を息苦しく過ごした少女の姿を生き生きと描き、実に興味深かった。

原作者はフランスに在住する30代のイラン女性マルジャン・サトラピ。79年のイラン革命前後の騒然とした時代に、子供時代を過ごした彼女自身の自伝的な物語である。

2000年にフランスでグラフィック・ノベルとして出版され、大ヒット。世界12カ国で翻訳され、日本でも『ペルセポリスI イランの少女マルジ』の題名で出版されている。アニメ化に当たっては、彼女自身が監督を担当。去年のカンヌ映画祭でアニメ作品としては稀な審査員賞を受賞した。

自由快活に暮らしていた子供時代に、大好きだった伯父が政治活動の末の投獄処刑される。その衝撃的な体験後、マルジは反抗的になってにパンクロックにのめりこむ。

トラブルを怖れた親は14才の彼女をウィーンの寄宿学校に送った。以来、ヨーロッパとイランを行き来するマルジ。フランスの大学時代は失恋のためドラッグに溺れ、イランに帰国して短い結婚生活の後、また渡仏…。

ドラマにはこと欠かないマルジが、少女から大人の女性へと成長していく姿が次々と手際よく描かれていく。

優しい母と賢明な祖母との関係が愛情豊かに描かれ、「自由」なフランス生活になじめない若い女性の哀感が伝わり、海外生活者には共感しやすい作品だろう。

台詞はすべてフランス語。マルジと母の声は、実の母娘キアラ・マストロヤンニカトリーヌ・ドヌーヴ、祖母はダニエル・ダリューと、フランスを代表する女優たちが演じている。ソフトな語感が心地良いが、イラン女性が自分を語る言葉がフランス語であるというアイロニーも浮かびあがる。

裕福な家庭環境の中で、西洋的な教養を身につけ育ったサトラピ監督の体験は、イラン女性としてはかなり特異なものだろう。昭和初期に米国留学していた白州正子の体験が、大半の日本女性の体験とは違っていたのと似ている。

政治色が薄く、デリケートなコスモポリタンの孤独が際立つのはそのため。それは美点でもあるが、昨年公開のサッカー試合を観戦しにいく少女たちを描いたイラン映画 "Offside" http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20071017の溢れる生命力に欠ける気がした。

上映時間:1時間35分。サンフランシスコは11日よりエンバカデロ・シアターで上映開始。

"Persepolis"日本語公式サイト:http://persepolis-movie.jp/