"4 Months, 3 Weeks and 2 Days"


"4 Months, 3 Weeks and 2 Days" 写真クレジット:IFC First Take
89年のルーマニア革命が起きる寸前のブカレストが舞台。チャウシェスクが率いる共産党独裁政権下、妊娠中絶が禁止されていた時代に、闇堕胎をする女学生の悪夢のような一日を追っている。
去年のカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した作品。当然と納得できる力作だ。緊張感が緩むことなく、2時間があっという間に過ぎていった。

主人公は、大学の女子寮で同室のガビータ(ローラ・バシリュー)とオティリア(アナマリア・マリンカ)の2人。オティリアは妊娠しているガビータのために、秘密裏に堕胎をするホテルの部屋の確保に出かけ、トラブルの末に部屋を確保する。ガビータと堕胎医を待つ不安なひとときの後、やってきた堕胎医は極めつきのワルだった。始めから高飛車で、難くせをつけて金以外にも「報酬」をよこせと脅し出す。

この脅しのシーンが衝撃的だ。貧しい女学生の窮状につけ入り恫喝する男の加虐性が次第に強まり、観ているだけでゲッソリ。女たちは、猛獣に見据えられたカモシカ同然、無残に屈服されられる。

乱暴にズボンを脱ぎ下半身をさらすオティリアを、離れた位置から覗く冷徹なカメラの視線。しかも、オティリアの受難は終わらない。その夜、バスルームに転がる胎児の始末までするのである。彼女は親友のためになぜここまでするのか。

昼の衝撃と胎児を抱え、人影に脅えながら寒々しい夜の街を歩き回るオティリア。ガビータが孕み、オティリアが捨てたものの正体は何だったのだろう。オティリアの味わった屈辱、理不尽、怒りを通して、独裁政権下で生きるという感覚が冷たく身体に染み込んでくるような映画だ。

オティリアが奔走した思いの中に、友情を越えた体制そのものへの反発を嗅ぎ取ることもできる。それに反して、電話に出ないなどの行動をする甘ったれたガビータがサスペンスを盛り上げるという設定も、日常感覚があって巧い。

ヨーロッパの共産主義独裁政権を題材にした映画では、去年の“The Lives of Others”が記憶に新しい。ベルリンの壁の崩壊後20年近くを経て、暗く醜い過去が映画作品としてようやく描かれるようになったのだ。それを自虐史観などと退ける人はいないだろう。脚本と監督はルーマニアのクリスチャン・ムンギウ。

上映時間:1時間53分。 サンフランシスコはエンバカデロシアターで上映中。

"4 Months, 3 Weeks and 2 Days" 英語公式サイト:http://www.4months3weeksand2days.com/blog/index.php