"Juno", "Stephanie Daley"など


"Juno" 写真クレジット:Fox Searchlight Pictures, 20th Century Fox International

ハリウッドの女性映画は恋愛やキャリアを題材にし、どれも異口同音の感がある。しかし、女性ライターや監督たちが描く女の世界はどれ一つとして同じものがない。

ティーンの妊娠一つを取っても、まったく違った問題点を提起していく。その一つが現在大ヒットを続けているコメディ映画の"Juno"。16才で妊娠した女子高生ジュノの物語で、これがすべてに型破り。

ジュースをがぶ飲みしたジュノ(エレン・ペイジ)が、雑貨屋内のトイレで妊娠をチェックする出だしから、すっかりこの映画に魅了されてしまう。妊娠を知っても慌てず、子供の父であるオタクっぽい男の子も逃げず、親も大仰に驚かないという快調な滑り出しで始まる。

子供を産んで養子に出したいというジュノを、親も親友もベトつかない愛情で支える。もちろん紆余曲折があるが、最後はすべて丸く収まってメデタシ。作りものの甘さのない清々しいエンディングだ。

予算3億円ほどで製作されたマイナー作品だが、拡大公開とロングランが続いて100億円を越える07年のメガヒットとなった。シニカルな口をきく小柄なジュノが、16才なりの見識を持って奮闘するところが愛らしく、人気を集めたようだ。

オリジナル脚本を書いたのはディアブロ・コーディ。ブロガー転じて脚本家に抜擢された。経歴を読むとストリッパー、セックス電話のオペレーターなどカラフルで、ブログの方も確かに面白い。

"Juno"英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/juno/


"Stephanie Daley"写真クレジット:Regent Releasing's

同じテーマでまったく異質な視点を提示する作品が "Stephanie Daley"。ヒラリー・ブラウアーが脚本/監督し、去年の春に公開された。

"Juno" の明るさをポジとするとこの作品はネガ。主人公は同じ16才の女子高生で、彼女は妊娠を隠し続け、トイレで子供を産んで死なせてしまう。田舎町の大事件になるが、本人は妊娠に気がつかなかった、子供は死んでいたと証言。セラピストの元に送られる。

このセラピスト(ティルダ・スウィントン)が臨月に近い妊婦という設定。彼女も前の妊娠で胎児を死なせた経験があり、2人の女が妊娠をめぐる対話を持ちながら、混沌とした心理に深く入り込んでいく力作だった。
"Stephanie Daley"英語公式サイト:http://www.stephaniedaley-themovie.com

また、同じ頃公開されたカレン・モンクリーフ脚本/監督作品の"The Dead Girl"も意欲的な秀作だった。

若い女の他殺死体が発見され、その女と関わりのあった5人の女たちが登場する。事件の衝撃を女たちはどのように受け止めたのか。5章からなる物語が濃い感情的密度を保ちつつ描かれる。

母との葛藤を抱えている女を登場させ、複雑にねじれる現代の母娘関係への視線も鋭く、女=被害者という図式を超えた肉厚な女性映画だ。脚本にほれ込み出演しているトニー・コレットマルシア・ゲイ・ハーデンなど実力派俳優たちが数多く競演し、見応えのある作品だった。

最後に、"Juno"と同じくアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされたタマラ・ジェンキンズ監督の "The Saveges"も面白かった。こちらは老父の介護問題に絡めて中年で独身という兄と妹の関係が描かれる。家族関係の濃さをジッと見ている視点に独自のユーモアがあり、近年これほど身につまされたアメリカ映画はなかった。

"Juno" はチャーミングな映画だが、まさかこれほどの大ヒットになるとは誰も予想していなかったと思う。ユニークで現実感のある女性映画が待たれているのだろう。その期待に応えるように、07年はインディ系の新しい女性映画の胎動が感じられる豊かな一年だった。