"The Incredibles"


"The Incredibles" 写真クレジット:Disney and Pixar's
大人も子供も一緒に楽しめる極上の娯楽映画なら断然、ピクサーの長編3Dアニメを推薦したい。ともかくも、絶対に面白い。
95年の長編デビュー作 "Toy Story" 以来の大ファンで、 "Toy Story 2"、"Finding Nemo" 、去年公開された"Ratatouille" まですべて観ているが、ハズレがない。これって驚異的なことだと思う。
才能のあるアニメーター、ストーリーテラーが集まり、自由な環境の中で丹念に時間をかけて作品作りをしているからだろう。

"Shrek"などの他社の長編アニメが有名スターを声優として起用し、主に彼らのしゃべくりのおかしさで見せるのとは違う、純粋にアニメーションの面白さで見せるのが特徴だ。どの作品も脇役にいたるまでキャラクターがよく書き込まれ、どれが一番好きかと迷うのだが、大人の悲哀と家族愛が際立つピクサー6作目 "The Incredibles"(2004年)は特にお薦めだ。

日本では『Mr.インクレディブル』という題名で公開されたが、これはちょっと不正確。なぜなら、主人公はMr.ではなくインクレディブル家の家族で、この家族が力を合わせて悪に立ち向かうところがこのお話のミソだからだ。

国の政策のためにスーパーヒーロー業(?)から引退させられ、郊外で正体を隠して平凡な家庭生活を送っているボブとヘレン・パーの夫婦。二人には内気なティーンのヴァイオレット、いたずら盛りのダッシュ、赤ちゃんのジャック=ジャックの3人の子供がいて、母のヘレンは子育てに追われていた。

ボブはかつてMr.インクレディブルと呼ばれた怪力の持ち主だったが、今は保険会社のサラリーマン。太った腹を抱えて栄光の日々を思い出してはため息をつく毎日。そんなボブに「スーパーパワーを生かせる仕事があります」と声をかけてきた美女がいた。ところが、これが罠だった…。

という訳で、ボブはあっけなく宿敵の手に落ち、それを知ったヘレンと子供たちがボブを救うため絶海の孤島に向かう、というシンプルな筋立てだ。見どころはそれぞれにユニークなパワーをもった家族の活躍ぶり。次から次とあっと驚くようなスーパーパワーを披露し、よくぞこんなことを考えつくものだと、作り手たちの豊かな想像力に心から感心させられる。


特に良かったのが、母親ヘレン。彼女はかつてイラスティガールと呼ばれたスーパーヒロインで、身体がゴムのように伸縮自在。どんな狭い所でも侵入できるほかに、アワヤという時に驚異的な柔軟性を発揮して驚かせてくれる。透明になれる娘ヴァイオレットのパワーも少女らしくて素敵だ。

それに比べて男たちのパワーは直線的で強力。父のボブが力持ちなら息子ダッシュは超スピードで走れるという設定だ。この二人のパワーも危機一髪で実に巧く活かされていく。

スーパーヒーローが平凡な市民生活に馴染めず、不遇を囲うという着想が卓越している。ボブは人助けをするために生まれて来たのに、保険会社では人を苦しめる仕事ばかり。老女に保険金を出せないと拒絶するのが辛くてクビになる、というエピソードが笑える。

また、宿敵との対決の最中でも子供たちの力を褒め、元気付けるヘレンの優しく包容力のある母親ぶりも印象的で、家族で闘う姿が実に気持ち良く描き出されている。スパイダーマンバットマンなど、スーパーヒーローは孤独と相場が決まっていたが、そのイメージをひっくり返した形だ。

監督はブラッド・バード。自分の家族をモデルにこの脚本を書き、ピクサーに持ち込んだ。才能のある人だがハリウッドで職を転々とした苦い体験を、ボブのキャラクターに活かしたようだ。自分の体験がきちんと作品に反映されたことが成功に繋がり、05年のアカデミー賞最優秀長編アニメ賞を受賞。昨日、彼が去年監督した最新作"Ratatouille"もアカデミー賞の同じ賞を受賞した。
上映時間:1時間51分。

"The Incredibles" 日本語公式サイト:http://www.pixar.com/jp/feature/incredibles/