”PASSION & POWER: The Technology of Orgasm”


”PASSION & POWER: The Technology of Orgasm”写真クレジット:Wabi Sabi Productions

ウフフ、観ながらそんな笑みが止まらないフェミニストらしい映画を観た。サンフランシスコで活躍するフィルムメーカー、エミコ・オオモリとウェンディ・スリックが監督したドキュメンタリー作品だ。バイブレーターの歴史を追いながら、女性のオーガズムについて分かりやすく解明していくという内容だ。


扱いを間違えると、ウフフでなくイヒヒという笑いを誘うやもしれぬ題材だが、撮影監督として経歴の長いオオモリ監督が撮りためた自然の映像を巧みに使い、美しい映像作品になっている。

映画作りの発端は、レイチェル・メインズ博士が書いた”The Technology of Orgasm: Hysteria, the Vibrator, and Women’s Sexual Satisfaction”との出会いから。「セックス、ドラッグ、ロックンロール世代」と自称する分別盛りの2監督が、この本で目からウロコの体験。7年もかけて映画化にこぎつけた。

バイブレーターはそもそも、「ヒステリー」の治療器具として開発されたという意外な発見から始まる。19世紀の終わり頃だ。当時セックスは完全なる男の主導で、女のオーガズムなど存在しないと思われていた時代。フランスのロマンス小説を読むのもヒステリー症状の一つとされるほど女性の性と意識は閉ざされていた。

頭痛や不眠、イライラに悩まされた女たちが密かに医師を訪ね、医師たちはマッサージ治療で対応。が、いかんせん治療に時間が掛かり過ぎた。という訳で医学的大発明バイブレーターが生まれ、大いに医師達の時間を節約した。この機械が実に大がかりなもので、こんな機械で快感を得ていた女たちを思うと愕然たる思いにもなる。

その後、「病いを家庭で治す」小型の器具として女性誌などに広告宣伝(写真参照)されるようになり、「付属器具を代えると料理用としても使えます」、というビックリ仰天の売り方までされて、一般化していった初期の進化のほどが明かされる。ここまではウフフ笑いの連続だった。

そんなバイブレーターがセックス・トイとして使われ始めて女性誌から姿を消し、60年代後期のフェミニスト運動を通して女性の性を解放する器具として再登場、という歴史を学者や当時の活動家たちの証言とともに描いていく。

また、現在バイブレーターの販売を違法とするテキサス州ブッシュ大統領の出身地)で、主婦が逮捕された事件も追っている。銃は買い放題、バイアグラ販売は合法でもバイブレーターは違法というテキサス州の蒙昧さにあきれつつ、米国の不可解な一面を見る思い。(2月14日、上記逮捕の違法性が争われていた裁判で、テキサス州控訴裁判所はバイブレーター等の販売禁止を覆す判決を出した)

歴史をさかのぼるという意味では実にアカデミックな作品だが、堅苦しさはまったくない。花やクラゲなど典型的「女性のイメージ」を多用して想像力をかき立て、笑わせてくれる。知的でユーモアのある女性の話に聞き入る面白さがあり、その余裕のある姿勢にフェミニズムの成熟が感じられる好作品だ。

また、60年代当時、タブー視された性の神話に過激に挑戦した活動家たちが、初老となった今も闊達に語る姿も印象的。観終わると、社会的に侮蔑されながら、峻烈な思いで闘った女性たちを忘れてはならない、ティーンから老齢の女性にも観てもらいたい、という監督たちの熱意がビビッドに伝わってきた。

上映時間:1時間14分。

”PASSION & POWER: The Technology of Orgasm”の公式サイト:
http://www.technologyoforgasm.com/index.asp