"Brick Lane"


"Brick Lane" 写真クレジット:Sony Picture Classics

映画で取り上げられることのめったにないイスラム教徒の移民女性に光をあてた映画作品。
主人公ナズニーン(タンニシター・チャテルジー)は、会ったこともない男と17才で結婚するため一人でバングラデシュからロンドンにやって来た。夫シャヌーは彼女の2倍も年上、生活能力のない臆病な男。移民ばかりが暮すブリック・レーンの貧し気な団地で自分の意思や希望も言葉にしない大人しい妻として生きるナズニーンだ。
イギリス生まれの二人の娘はすでにティーン。長女は反抗期で、自己主張をしない母とダメな父への怒りを隠さない。ナズニーンの楽しみは国に残した妹からの手紙。心躍る思い出は故郷にしかなかった。そんな彼女が若い男と恋に落ちた。そして、衝撃の9月11日の事件が起きる…。

イギリスで文学賞の候補になった、バングラデシュ出身の作家モニカ・アリが03年に初めて書いた小説の映画化である。監督も劇映画が初めてのサラ・ガブロン。

鋭い観察眼をもった女性の一人称で書かれた原作にそって、受け身な外見から想像もつかない主人公の内面の揺れ動きと成長の変化を、感傷的な表現を避けて描いた意欲的な作品。愛のない結婚、異国での同化の難しさ、故郷への思い、熱い恋、イスラム・コミュニティ内での政治的対立など多くの問題が提示されていく。

主人公が別の男を好きになっても、夫に後ろめたさを感じなかったところが面白い。身持ちが悪いというより、夫に対して愛情がまったく持てなかったからだろう。夫は結婚という職場の無能な上司のような存在。恋をしても裏切りという自覚すら持てない関係だったのだ。ところが、そんな夫との関係も主人公が精神的に自立していく過程で、少しづつ変化していく。

難を言えば、台詞がさまざまな訛りの混合で聞き取りにくかったこと。また、盛りだくさんな内容も深く追い切れていない不満があった。字幕付きで見直すか、原作を読んでみたいと思う。

最後に、イギリスでは本にも映画にも強く反発するバングラデシュの移民グループがおり、本が焼かれたりロンドン映画祭で王室の上映会出席が中止となったりしたようだ。原作者がこの体験に懲りず、独自の小説を書き続けて欲しいと願うばかりだ。

上映時間:1時間41分。サンフランシスコはクレイ・シアター、UAストーンズタウン・ツインで上映中。

"Brick Lane"英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/bricklane/