"Elegy"


"Elegy" 写真クレジット:Samuel Goldwyn Films
地位も名声もあるちょいワルの老年独身男が、30才以上も年下の美女とつき合い始めた。うまくいくようには見えないのだが、性の快楽主義を標榜するインテリなので自信たっぷりだ。
主人公としてはかなり苦手タイプの男だが、監督が女性(『My Life Without Me』のイザベル・コイシェ)だったのが良かった。美女にクラクラとなり、思い込みにとらわれた男を、否定も肯定もなくニヤニヤと見ている視線が面白かった。

原作は『Human Stain』などで知られる米文学界の巨人フィリップ・ロスで、原題は『Dying Animal』。Amazon.comの日本語版の紹介文には「“死にゆく獣”としての男の生と性への執着を赤裸々に描く」とあったが、そんな大仰な映画ではない。『Elegy』というタイトルがピッタリの、大人になれない男の哀感が漂う物語だった。

文化批評家であるデイヴィッド・ケペシュ(ベン・キングズレー)は、大学の教え子コンスエラ(ペネロペ・クルス)の美しさに魅了され、知的な会話で誘って彼女と関係を持つ。ところが、いつでも別れられる関係のつもりが、なぜか強い執着心に悩まされるようになる。関係が長引くにつれ、親と会って欲しいというコンスエラの願いを無視し続けるデイヴィッド。彼女は失意のまま去っていく。

若くて美しい女はいくつになっても男を魅惑するものらしい。が、女の若さは自分の老いを意識させ、美しさは若い男に奪われるのではという怖れを生む。

へ理屈をこねてはいるが、老いにとらわれたただの嫉妬深い男となりはてたデイヴィッドは、親友の詩人(デニス・ホッパー) に相談する。すると彼は「美女は誰にも見えない。皆彼女の外側に眩惑されるからな。お前は彼女が見えているのか」と苦言を呈する。この二人の友情がなかなか泣かせる。コンスエラは確かに美人だが、謎めいたところのないごく普通の移民の娘なのだ。

バリバリに都会的だがどこか孤独なデイヴィッドのセックスフレンド (パトリシア・クラークソン)や、母を捨てた父を恨みつつ愛情を欲する医者の息子(ピーター・サースガード)など、面倒にこみ入った人物像も素晴らしくよく描けており、主人公の生きる世界がくっきりと浮かびあがる。

エンディングのエピソードはビターだが、これぐらいのことがないと男は目が覚めないのかもしれない。

上映時間:1時間46分。8月8日より上映開始。

"Elegy" 英語公式サイト:http://www.samuelgoldwynfilms.com/