"The Dark Knight”


"The Dark Knight”写真クレジット:Warner Bros. Pictures / Legendary Pictures

週明けのニュースで、バットマン・シリーズ "The Dark Knight" が10日間で3000万ドルを稼ぎ出して話題になっている。この手の映画はかなり食傷気味だったが、確かにこの映画は素晴らしい出来だった。
今年始めに急逝したヒース・レジャーがジョカー役で燃え尽きたらしい、という風評もあって劇場に駆けつけた人がいたかもしれないが、ただの野次馬だけでこれだけの数字は出ないだろう。確かにレジャーの演技には鬼気迫るものがあったが、それはこの映画の極上の面白さの一つに過ぎない。

上映時間2時間32分という長丁場を、それだけの時間を使って語るべき物語があった、というのがこの映画の成功の理由だと思う。当たり前のようだが、ヒーローもので語るべき物語があるというのは、実はまれなことだ。

旧スーパーマン、スバイダーマン、Xマンなど続編も3作目になるとさすがにタネも尽き、語るべきことが何もない。数ヶ月前に公開され大ヒットした”Iron Man"を観た時は、始めの15分で誰が隠れた悪玉で、話がどう展開するか簡単に見当がついてしまった。

その分かり切った話を、派手な爆破や車の転倒の特撮、コンピューターの画面変化などで時間稼ぎしつつ見せていく。特徴は分かりやすい物語と類型化された登場人物。原作がコミックだから話がつまらなくも良い思っているのか、どれを観ても同じ。感想は「でも特撮はスゴかった」位ではないか。

これではダメだろう、というところから出発しているのがこの映画だ。前述の問題点をすべてクリアし、二つの顔を持つ主人公(クリスチャン・ベール)が、餓鬼のごとく禍々(まがまが)しい悪の出現で、精神的社会的に追い詰められて行く様子を描いている。

これまでのヒーローものではあり得ない展開や、観客自身にも問いかけてくる緊迫した状況設定など、複雑に迷走する物語が緻密に積み重ねられていく。ともかくも凄いと感心したのは、マントを着て空を飛ぶ男を主人公に、伝統的なフィルム・ノアールを作ってしまったこと。
"The Departed" にバットマンが出てくるようなもので、コミックの荒唐無稽をなめらかに犯罪映画にブレンドした手腕は見事としか言いようがない。集客力のために単純化/劣化されてきたジャンルにまったく新たな命を吹き込んだ最高作と言える。

監督は、物語を最後から語るという超ユニークな "Memento"(00年)でブレイクしたクリストファー・ノーラン。弟のジョナサンとの共同脚本だ。

脇を固めた俳優たちもマギー・ギレンホールアーロン・エッカートゲイリー・オールドマンマイケル・ケインモーガン・フリーマンと豪華で、みな好演している。

現在ベイエリア各地内のシネコンで上映中。

"The Dark Knight”英語公式サイト:http://thedarkknight.warnerbros.com/