"A Man Named Pearl"


"A Man Named Pearl" 写真クレジット:Shadow Distribution
ラッパーでもギャングでもない、勤勉でまっ正直、長年つれそった仲の良い妻がいるアフリカ系男性が主人公。情熱的なアーティストだが、芸術家を気取るところなどみじんもない素朴な男と彼を囲む人々を追い、観る者に微笑みと勇気を与えてくれる。
アートを志す人を始めとして子供から大人まで、誰にでも薦めたくなるポジティブで力強いドキュメンタリー映画だ。

主人公は68才のトピアリー・アーティスト、パール・フライヤー。トピアリーというのは、樹木を刈り込んで動物などの立体的な造形物を作る園芸法。パールは、まだ人種差別が根強いサウスカロライナで、独学でトピアリー技術を学び、自分の家の広大な庭を幾何学的トピアリーで埋め尽くしてしまった。

その想像力に溢れた造形に惹かれて世界中から見学者が後をたたない。彼の庭を訪ねた人はみな、そのピースフルで愛に満ちた空間に癒されると言う。

働き者だった綿つみ農夫の父を持つアフリカ系のパールは、缶工場のエンジニアとして長年働いていたが、職場での先行きはデットエンド。そんな彼が白人住宅地に家を買おうとして拒否された。「黒人は庭をきれいにしないから」という理由。

一念発起したパールは、アフリカ系が多く住む地区に庭のある家を買い、庭作りを始めた。目標は、小さな町ビショップビルでアフリカ系住民として初の「今月の庭賞」を取ること。これがトピアリー熱に取りつかれた始まり、84年の頃だ。

以来、彼は12時間労働を終えた後、暗くなってから電灯をつけてトピアリー作りに熱中した。彼の庭の高い芸術性に気が付いたのは近所や町の人だけではなかった。現在、彼のトピアリーは美術館や大学の庭をも飾るようになり、美術大学で講義をするようになった。

「彼の体験を聞いていると自分の不満なんて大したことはないと思えて」という若いアフリカ系の学生。そう、彼のそばにいると障害にくじけてはいられないという気持ちにさせられる。

真っすぐに生きる人は、周囲の人間も真っすぐにさせてしまうものらしい。パールは木を刈り込みながら、きっと自分を取り巻く障害も刈り取ってきたのではないだろうか。人種偏見を創造へと転化させた傑出したロールモデルと言える。

監督はスコット・ギャロウェイとブレント・ピアソン。共にテレビ向けドキュメンタリー作品を多く作って来たベテランだ。ややテレビ番組風な作りが気にはなったが、パールへの職人的な共感が感じられる。映画館の大画面でパールの庭の素晴らしさを体験してほしい。

上映時間:1時間12分。サンフランシスコは15日よりカブキ・シネマで上映開始。

"A Man Named Pearl" 英語公式サイト: http://www.amannamedpearl.com/