"Frozen River" 主演俳優メリッサ・レオに聞く


"Frozen River" 写真クレジット:Sony Picture Classic
しぶい表情で煙草を吸う女の眉間に深く刻まれたシワ。短い爪先を色どる禿げたマニキュア、煙草の煙と共に絶望も吐き出す女の白い息。そんな女のクローズアップで始まる"Frozen River"。
主演のメリッサ・レオが文句なしに素晴らしい。テレビ番組"Homicide: Life on the Street" でネクタイをしたハードな女刑事役で強烈な印象を残した人、と言えば思い出す人もいるだろう。地味な脇役が多かった彼女の珍しい主演作品だ。

物語はサスペンス仕立て。カナダの国境近くのアメリカの町で、二人の女が危険な密入国者の運び屋を始めた。一人は若いネイティブ・アメリカンのライラ(ミスティ・アップハム)、年上の女はレイ(レオ)。共に子持ち、夫は失踪中、貧し気なトレイラーハウスに暮すところまでそっくりな二人だ。切羽詰まった母親二人が、子供に食べさせるために始めたシゴトだった。だが、次第に危険が迫ってくる…。

犯罪に手を染めた貧しい女二人の物語、こんな映画を観たことが無かった。スリリングな展開をするが犯罪サスペンスの娯楽性はなく、女たちの心理の変化に視線が注がれ、極め付きの面白さだ。今年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞したのも頷ける。

03年の "21 Grams"(A. G. イニャリトゥ監督)を観てレオに惚れ込んだ監督が、彼女に出演依頼。レオも快諾した。「頼まれたら断らないのが私の主義。しかもこんなジューシーな役柄なんて滅多に回ってこないわ。ともかく脚本が素晴らしかった。台詞よりト書きの方が長いくらいだったので、とても演じやすかった」と監督のオリジナル脚本の魅力を語る。

メリッサ・レオ(左)とコートニー・ハント監督(右)
"Frozen River" 写真クレジット:Sony Picture Classic

極寒の中で撮影が進んだ現場ではキャストのまとめ役をかって出た。「人を観察するのが役者の仕事。人が何を欲しているかはすぐ分かる」というリオ。これが初作品だった監督のためにカメラの位置など演出上の助言をして彼女を支えた。

「物語の進行とは無関係に撮影が進んでも、数日前に撮ったシーンのことを正確に覚えているプロフェッショナリズムに感服した。彼女なしにはこの映画は考えられなかった」と感慨深く語る監督。それに応えるようにリオも「予算の少ない映画の時はできることはなんでもするのが当然。主人公の心理がどこからどこへと変化していくかについて、自分の中でノートのようなものを取っている」とベテラン俳優の信条を気さくに聞かせてくれた。

かなりの汚れ役だったが、実際に会ってみるとシワはメイクだったことが分かる。さすが俳優と見とれてしまうほど姿勢がいい。
今年、他の主演作を含めた4作品が公開される。今がプライムタイムですね?と聞くと「50才になってプライムなんて最高よ!」と笑顔を見せてくれた。

上映時間:1時間36分。サンフランシスコは15日からカブキ・シアターで、22日からエンバカデロ・シアターで上映開始。

"Frozen River" 英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/frozenriver/