"Vicky Cristina Barcelona"(邦題『それでも恋するバルセロナ』)


それでも恋するバルセロナ』 写真クレジット:The Weinstein Company/Dimension Films

70才を越えた今でも毎年新作を作り続けているウディ・アレン監督の最新作。久しぶりにお得意のロマンチック・コメディに腕をふるった感のあるオイシイ一作で、滑らかな語り口は名人の落語を聞いているような心地良さだった。
05年の"Match Point" 以来、作品の舞台をニューヨークからロンドンに移していたアレンだが、今回の舞台は、ガウディの建築に彩られた美しいスペインの街バルセロナ。配役も華やかで、観客をバカンス気分に誘ってくれる。

バルセロナで一夏を過ごすことになったヴィッキー(レベッカ・ホール)とクリスティーナ(スカーレット・ヨハンソン)が主人公。婚約者もいて論文の調査をしたいヴィッキーと情熱的な恋に憧れるクリスティーナの二人は、すべてに関して対照的だ。そんな二人がある晩、魅力的な画家ホアン・アントニオ(ハビエル・バルデム)と出会った。

この男が一人で夜を過ごせない根っからの女好き。それぞれの女の夢を満たす甘い言葉で二人を誘惑し、まんまと彼女らの心をつかんでしまう。ところが、この男には彼を殺そうとした激情的な元妻マリア・エレナ(ペネロペ・クルス)がおり、彼は彼女との刺激的な関係に未練を残していた。という訳で、一人の男に女三人がからむ恋のから騒ぎがにぎやかに展開する。

アレン・コメディの特徴は、物語の中盤を飾るデタラメ感だ。この場合は「情熱の国スペイン」のイメージそのままの画家夫婦のムチャクチャぶり。こんなデタラメあり?という夫婦関係だが、バルデムらの演技に説得力があってみせてしまう。

怪演で知られるバルデムが自分の欲望に忠実な憎めない女たらしをゆったりと演じ、クルスもスペイン語になると水を得た魚で、自分の情熱に振り回される才能豊かな女をのびのびと好演している。

さて、そんな二人の嵐に巻き込まれた若い女たち。学位を取り将来有望な男と結婚して家を買ってという堅実派のヴィッキーと、何がしたいのか分からない自分探し派のクリスティーナ。どこにでもいそうな二人がありあまる自由と豊さの中で、ちょっとだけ味わった激情はどんな味がしたのだろう。

観終わって感じるのは、すべてはひと夏の夢という感覚。夢から覚めてストンと着地する現実感、というのもアレンらしい。ファン必見の新作と言える。

上映時間:1時間37分。サンフランシスコはカブキ、バンネス、プレシディオ各シアター、センチュリーSFセンターで上映中。

"Vicky Cristina Barcelona"英語公式サイト:http://vickycristina-movie.com/