"Frozen River" 2


"Frozen River"写真クレジット:

カナダ国境近くのアメリカの町で、二人の女が密入国者の運び屋を始めた。一人は若いネイティブ・アメリカンのライラ(ミスティ・アップハム)、年上の女はレイ(メリッサ・レオ)。
ライラの暮すモホーク族の居留地セントローレンス川を挟んでカナダと米国に広がり、冬になると川が凍って国境が消えるのだ。カナダで密入国者を拾い、車のトランクに彼らを隠して凍った川を一晩かけて渡る。一回運んで一人分の分け前が600ドル。安いのか高いのか分からない報酬だが、二人にとっては大金だ。

女たちにはそれぞれ子供がいる。小さな町のまったく違った世界にいた二人だったが、夫に失踪され、貧しいトレイラーハウスに住んで…と驚くほど似た境遇にいた。何度かのシゴトの後、最後の一回だけやって足を洗うつもりのレイ。だが、事はそう都合良くは進まなかった…。

今年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞した作品で、監督はこれが初長編作品のコートニー・ハント。43才の新人、映画界では遅いスタートだろう。

映画学校に通って脚本や演出について学びながら、「女の映画にはアクションがない」と言われ続けウンザリしていた。夫の実家を訪ねた時に偶然聞いた女の運び屋の実話を元に脚本を書いた。03年『21グラム』(A. G. イニャリトゥ監督)を観てレオに惚れ込み、彼女に出演依頼。レオも快諾した。「こんなオイシイ役なんて滅多に回ってこないわ」と言うレオだ。

確かにこんなアメリカ映画は観たことがない。子供を食べさせるために犯罪に手を染めたドンヅマリの女二人の物語。スリリングな犯罪サスペンス風な作りだが、焦点が置かれているのは二人の女の心理と関係の変化だ。

誰にも言えない不法なシゴトをしている怖れと負い目から二人の会話は極めて少ない。だが危険な夜を何度も過ごしながら、少しづつ自分の力を自覚していくレイ。孤独なリアも自分の境遇を語り始める。

女のハードボイルドと呼ぶにはあまりに貧しく、女の友情ものと呼ぶにはあまりに乾いた二人の関係。どんな映画の枠にもはまらない感じがゾクゾクする面白さに繋がる。

最後、レイかライラかのうち一人が自首しなければならなくなる。ともに子供のいる母親の選択を描く難しいエンディングだ。「結末は自分でも最後まで分からなかった。レイならどうするだろうか、と考えた」と言うハント。納得のエンディングが感動的だ。

監督から「ジョン・ウェインの映画をみて、彼の持つ静かで確かな存在感を出すことを研究するように言われたの」と言うレオ。車内で長い沈黙や一人煙草をふかすシーンなど台詞のないシーンでの演技が息をのむ素晴らしさだ。

「自分は演じ過ぎるきらいがあるので、監督の微妙な演出が良かった」と謙遜していたが、久しぶりの主演作品で会心の演技をみせている。名脇役のベテランで、今年他の主演作を含めた4作品が公開される。

俳優として最盛期ですね?と聞くと「50才になって最盛期なんて最高よ!」と大きな笑顔。彼女の大ファンとしてもうれしい。

マイナーなので日本での公開が決まっていないが、ぜひ女性映画祭などで上映して欲しい作品。「この作品で日本に行けたらうれしいわ」とハント監督も期待を寄せていた。

上映時間は1時間36分。

"Frozen River" 英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/frozenriver/

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