"The Lucky Ones"


"The Lucky Ones" 写真クレジット:Roadside Attractions
ここ数年、イラク戦争の帰還兵を題材した秀作("In the Valley of Elah"http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20071030/1193759942, "Stop-Loss")が公開されている。この映画も帰還兵が主人公だが、ムードはだいぶ違う。

イラク戦争の是非を問う政治的なトーンを抑えて、笑いもたっぷり。三兵士のドラマと関係に焦点を当てることで、他作品とは違う兵士たちの現実と、彼らの目に映ったアメリカの現在を描き出した好作品だった。

監督は06年に陰影豊かな "The Illusionist" を発表したニール・バーガー。作家のダーク・ウィッテンボーンと共同執筆したオリジナル脚本は、兵士たちへの丹念なリサーチを下地にしている。

戦死したボーイフレンドのギターを家族に届けたいコーリー(レイチェル・マクアダムス)と、負傷して性機能に問題を抱えたT.K.(マイケル・ペーニャ)は共に30日の休暇を得て帰国。予備軍から派兵されたフレッド(ティム・ロビンス)は2年の任期を終え除隊の身。空港で偶然知りあった三人が、レンタカーの相乗りをすることになった。

待ちに待った帰宅を急ぐフレッドだが、家に着いたとたん家族問題が一気に噴出。悄然として家を飛出した彼は、気持ちを整理するために二人の目的地であるラスベガスまで同行することに…というお話だ。

息子の大学入学金2万ドルを工面したいフレッドと、人に言えない問題を抱えた若い二人。トラブルが起きてあたり前の状態なので、自殺未遂から始りドラマにはこと欠かない道中だ。

喧嘩っぱやいが、純真過ぎて生き難そうなコーリーは、休暇中も帰るところのない身の上。実は隊長然としてふるまうマッチョなT.K.も同じこと。下半身問題で婚約者にも会えない腰くだけ状態なのだ。情けない三人の人物像がよく描けており、彼らの交わす会話のピントのズレ具合がおかしい。

母国に帰ったものの異邦人気分な三人。帰還兵に親切な人々や、無神経な言葉を投げつける男たちなど悲喜こもごもの旅のエピソードを通じて友情が芽生えていく様子も、甘さひかえ目で良かった。

戦争から返ってこられた幸運、三人が出会えた幸運などの意味が込められたタイトルだと思うが、エンディングは苦く、幸運とは言いがたい。戦争はまだ続いている。

上映時間:1時間53分。ベイエリア各地の主要シアターで上映中。