"A Grand Day Out with Wallace and Gromit"(1989年)


"A Grand Day Out with Wallace and Gromit" 写真クレジット:Aardman Animations Ltd.

友だちに推薦されてDVDを買って以来何回観たか分からない。でも、ぜんぜん飽きない。粘土で作った人形が動くクレイ・アニメーションの傑作を紹介しよう。邦題『チーズ・ホリディ』。

お話は、チーズ好きの発明家ウォレス(声:ピーター・サリス)と相棒の犬グルミットが自家製ロケットを作って月に行くというもの。

地下室でロケットを作って、あっという間に月旅行に出発。到着した月面はチーズだらけで、用意した紅茶とクラッカーを持ってチーズ狩り(?)をしつつピクニックをしていると、ユーモラスなロボットに見とがめられて…というお話だ。

たった23分の短編の中に、夢と想像力を刺激するアイディアがいっぱい。月がチーズで出来ているという設定がユニークだし、古い扉をノコギリで切ってロケットを作ったり、ロボットがオーブン型をしており、コインを入れると動き出したりという仕掛けが独創的だ。

そして、断然楽しいのがウォレスとグルミットの絶妙なコンビぶり。ひらめきで押しまくるウォレスとヤレヤレまた始まったとつき合うグルミットの関係が、ペットとオーナーというより、長年人生を共にしたカップルのようで面白い。

台詞のないグルミットの感情表現は、微妙に動くおでこと目の動きだけ。ところが、その動きが言葉より雄弁。粘土人形とは思えない生き生きとした表情で楽天家と暮す苦労とおかしみを表現し、このアニメ最大の魅力になっている。

また、凝りに凝った小道具やディテールを見つけ出すのも楽しみの一つ。
クリスマスの絵柄のついた古いトレイにティーカップの跡がついて禿げていたり、ロケット内部に古びた壁紙が張られていたり。発見するたびにワクワクさせてくれる。

作り手の作品への愛情が細部にまでぎっしりと詰め込まれているからだろう。それもそのはず、クリエーターのニック・パークはこのアニメを作るのに6年も費やしたのだ。

いまやCGを駆使した3Dアニメの全盛時代だが、クレイ・アニメはその逆をいく手作業依存型のアニメーション。1秒24コマが動画の基本なので、粘土人形を少しずつ変形させながら1秒の動きを撮影するには気の遠くなるような時間が掛かり、一人のアニメーターが5秒ほどを撮影するのに1週間は掛かると言われている。

パークはその作業をほとんど一人でやって、この作品を完成させた。6年掛かったはずである。一コマ一コマに込められた彼のパッションが、指のあとが残るちょっといびつな人形から伝わってくる。

デビュー作であるこの作品で世界の注目を集め、以来「ウォレスとグルミット」はシリーズとなり、現在はグッズなども売られるほどの人気キャラクターだ。

2作目の "The Wrong Trousers" で1994年アカデミー賞短編アニメ最優秀賞受賞。05年には ”The Curse of the Were-Rabbit” を発表。これも同賞の長編アニメ賞最優秀賞を受賞している。それぞれに面白いが、私はこの作品が一番好き。奇想天外な物語が傑出している。

近作は何十人ものアニメーターたちによって作られているため人形たちも滑らかで見栄えがするが、その分手の感触が希薄。物語も想像の範囲内で、この作品に溢れる自由で豊かな想像力が感じられない気がするのだ。

パークは本当は全部自分で作りたいと言っているのだが、もう無理なのだろうか。数分の短編で良いから、もう一度誰も考えつかないような独創的なアニメを作って、私をまた子供のように熱中させて欲しい。

DVDで観る際は、"The Wrong.." など他の短編も入った "Wallace & Gromit in Three Amazing Adventures" をお薦めしたい。

上映時間:23分。

"Wallace and Gromit"日本語公式サイト:http://www.sonymusic.co.jp/MoreInfo/Chekila/wandg/