"HAPPY-GO-LUCKY"


"HAPPY-GO-LUCKY" 写真クレジット:Miramax Films
楽し気に自転車に乗る女性を正面からとらえたカメラ。道行く人に手をふって気分はサイコー。途中で本屋に立ち寄り、戻ってみると自転車がない。盗まれたのだ。ところがこの女性、左右を見回して一言「(自転車に)さようならも言えなかった」。
プッと吹き出し、たちまち彼女に魅了されてしまった。さすがマイク・リー監督、始りから観客を引きつける。ごく平凡な女性の生きる姿をユーモアと温かさに包んで描き続ける彼の最新作。今作ではちょっと心配になるほどの極楽とんぼが主人公だ。

30才独身のポピー(サリー・ホーキンス)は幼稚園の先生。気の合う小学校教師のルームメイトのゾーイと暮す。週末は友だちや妹とクラブに行って飲んで踊って…。

そんなポピーが運転免許を取ることになり教習所と契約。ところがやって来た教官スコット(エディ・マーサン)は最悪の男だった。ケラケラ笑って楽しく運転を習いたいポピーを怒鳴りつけ、あげくは世の中への恨みつらみまで吐き出すありさま。笑って彼をいなし教習を続けるポピーだが…。

ドラマチックなことは何も起きず、車の教習を中心にポピーの日常が点描される。幼稚園での明るい仕事ぶりに始まり、妊娠中の姉に「本当は幸せじゃないんでしょ」なんてなじられたり、上司に誘われてフラメンコを習ったり。小さなエピソードを積み上げながらノン気で純真なポピーの人柄が描かれる。同時に生徒に繊細な心配りのできる優秀な教師である一面も見せ、ポピーの現実感も見えてくる。

最後、スコットに自分の気持ちを伝える時の率直さと優しさ。ポピーの真価が光る。とかく平板で愚かしく描かれがちな極楽とんぼキャラを人間性豊かに、愛情を込めて描き、誰にでも薦めたくなる映画だ。

ポピーとゾーイが、鳥類図鑑を観ながら鳥の話をするシーン。女二人寄って男の話がまったく出て来ないのが愉快だった。

ホーキンスはこの役で今年のベルリン映画祭主演女優賞を受賞。リー監督は俳優選びが上手い。カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した "Secrets & Lies” のブレンダ・ブレッシンしかり、ヴェネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞した "Vera Drake” のイメルダ・スタウントンしかり。毎作品ごとイギリスに素晴らしい俳優たちがいることを再確認させてくれる。

上映時間:1時間58分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターで上映中、イーストベイはアルバニーで17日より上映開始。

"HAPPY-GO-LUCKY" 英語公式サイト:http://www.happy-go-lucky-movie.co.uk/