"Career Girls”


"Career Girls”写真クレジット:October Films
20代の頃、女友だちに泣かされたことがある。かなり痛いところを衝かれての悔し泣き。大人になってからあんなに泣いたのは初めてだった。あの時の熱さと激しさを懐かしく思い出させてくれたのがこの映画 "Career Girls” (97年、邦題『キャリア・ガールズ』)だ。


学生時代にルームメイトだった二人の女性の再会を通して、若かった二人の過去と友情を振り返るという物語。嫉妬や羨望など面倒な要素を含んだ女友だちのリアリティを見事に活写して異彩を放つ、イギリス映画らしい作品だ。

監督はマイク・リー。96年のカンヌでパルム・ドールを受賞した "Secrets & Lies” や、ヴェネチア国際映画祭イメルダ・スタウントンが主演女優賞を受賞した ”Vera Drake” などが代表作として知られる。

平凡な労働者階級の女性たちを主人公にした作品が多く、彼の映画に登場する女性たちはみな泣き顔がいい。顔をくちゃくちゃにして盛大に泣いてくれる。

卒業以来6年ぶりにロンドンに住むハンナ(カトリン・カートリッジ)を訪ねたアニー(リンダ・ステッドマン)。ハンナのアパートや品のよい壁の色を褒めると「おしっこ色よ」と強烈に返すハンナ。

今はキャリア・ウーマン風に洗練されているが、アンナが初めて彼女のフラットにやって来た時はハリネズミのようだった。ガサガサした皮膚炎が頬に広がるアニーに向かって「チーズおろし器とタンゴでも踊ったの?」と言い放ち、初対面のアニーを泣かせたのだ。
そんな二人がその後親友になろうとは。

皮肉屋でズケズケと攻撃的な言葉を連発する激高型のハンナと、喘息持ちでアレルギー体質、身体を揺らしながら甲高い声で話す神経質なアニー。正反対な性格ではあるが、若い女性ならでは男とセックスへの尽きせぬ興味を共有しつつ、言葉にならない互いへの理解と反発を抱えた共同生活が始まる。

こんなに風変わりな若い女性像は見たことがなかった。少なくともアメリカ映画には絶対出て来ない。ぎこちなかったり、虚勢を張ったり、相手の様子を窺ったりする微妙な女性の表情が、生き生きと捉えられている。

これこそが脚本を使わず、俳優に即興で演じさせるリー監督の演出の魔術だ。女性が100人いれば100通りのキャラクターがあるという当たり前を毎作品ごとに見せてくれる。しかも、女同士激しくぶつかるのだが、互いへの優しさが消えることがない。

物語は再会した二人が偶然過去の男性たちと出食わし、当時を振り返るという時間軸を行き来しながら進む。相変わらずの皮肉屋ぶりを見せるハンナだが、アニーを好きだった太っちょのリッキーの変わり果てた姿を見て愕然。強面のポーズから初めてデリケートな内面を覗かせる。

笑って懐かしむだけでは終わらない生きることの過酷さ。それをサラリと見せるリー監督の真骨頂がここにある。

強烈な変わり者ハンナを見事に演じたカートリッジは、この映画に主演した5年後の02年に41歳の若さで逝去。この紹介を書くために調べて知ったのだが、映画の残した苦みがそのまま現実化したようでショックを受けた。

さて、二人は再会を通じて何を発見したのか? 観る人によって感想が違ってきそうなのも、この映画の豊かさと面白さだ。私は、女友だちに泣かされた幸運が身にしみた。言いにくいことを言ってくれる女友だちを持つことの貴重さ。それが分かるのは分別臭くなる年をとってからなのだ。

最後に、リー監督の最新作 "Happy-Go-Lucky" も現在劇場公開中なので、ぜひお薦めしたい。http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20081015/1224076838
上映時間:1時間27分。