"Changeling"


"Changeling" 写真クレジット:Universal Pictures
母と二人暮らしの9歳の少年が消えた。数ヶ月後、警察はこの子を見つけ母親と対面させるが、彼女は息子ではないと断言する。ところが、警察は時間が経っているから別の子に見えるだけだと言い張り、母親の主張に耳をかさない。
あまりの強引さに負けてこの子を家につれて帰った母親だが、息子でないことは明白。警察にそれを訴えに行くと、なんと彼女は精神病院に送られてしまう。

こんな無茶な話アリかと驚いたが、1928年のロサンゼルスで起きた実話だ。その上、この消えた息子を追ってさらなる大事件が明らかになっていく。

その過程を余裕をもって見せるクリント・イーストウッド監督の手堅い演出が光る。彼の最高作とは呼べないが、飛び切り腕の良い大工の建てた家にいるような安定感のある作品だった。

脚本はジャーナリスト出身のマイケル・ストラジンスキー。ロス市庁舎で見つけた古い記録からこの驚くべき事件を拾い出してきた。アンジェリーナ・ジョリーがロス市警に挑むおとなしい母を演じて、今年のカンヌで話題になった作品でもある。

腐敗したロス市警というと50年代を舞台にした"L.A. Confidential"や、2004年の"Crush" などが思い浮かぶ。腐敗体質には年期が入っているらしい。ここでは警察と精神病院が結託して女達の訴えを封じ込めている。

警官である夫の暴力を訴えた妻や、客の暴行を訴えた売春婦などが「精神不安定」を理由に病院に閉じ込められているのだ。主人公が医師との面談中に些細な言葉じりを捉られ、言うことが毎回違う、精神が混乱しているんだと言われ、次第に自信を失っていく様子が恐ろしい。

イーストウッド監督は、"Million Dollar Baby" や『硫黄島からの手紙』などで、極限状況の中で最善を尽くす人々を描き、観客の心を掴んできた。が、本作では感動が今ひとつ。ジョリーの抑え過ぎた演技のせいか、どこかよそよそしい印象が拭えず、母と警察との対決も善悪対比が一面的で深みに欠けた。

特筆したいのは脇役。ごつい風貌の刑事や事件を語る少年などが20年代という粗野な時代を体現し、作品に重厚なリアリティを与えている。他の出演はジョン・マルコヴィッチエイミー・ライアンなど。

上映時間:2時間20分。ベイエリア各地のシネコンなどで上映中。

"Changeling"英語公式サイト:http://www.changelingmovie.net/