"Slumdog Millionaire"


"Slumdog Millionaire" 写真クレジット:The Fox Searchlight Pictures/Warner Bros.
インドのムンバイ(旧ボンベイ)を舞台に、クイズ番組 "Who Wants To Be A Millionaire?" に挑戦したスラム育ちの若者の物語。しかも、彼は生き別れになった少女との再会もこのクイズに賭けている。恋と賞金の獲得に挑んだ若者のファイナルアンサーは? 
誰もが引込まれるおとぎ話性が魅力の青春映画。トロント国際映画祭で観客賞を受賞した。こういう映画の成否は主人公への共感度にかかっているが、この主人公はアタリ。インドの男優というとむっちり体型が多いが、彼は貧弱で頼りな気なところが良かった。子供時代を演じたムンバイ出身の子役たちも細い手足に大きな瞳が愛らしく、賢く頭を使って生き抜く姿を生き生きと演じている。

主人公の名はジャマール(デヴ・パーテル)。文無しの18歳だ。ひょんなことからクイズ番組に出て勝ち続けたジャマールは、2000万ルピーを賭けた最後の質問を目前に警察に連行される。きちんとした教育を受けていない彼に正解が続いたのは怪しいという理由だ。ジャマールは質問の答えを知るにいたった自分の過去を刑事(イルファン・カーン)に語り始める。

兄とみなしごラティカと共に赤貧に耐えた日々。餓えと戦い、ゴミと糞にまみれ、乞食と泥棒と売春婦とギャングの中で生き伸びてきた三人。だがその暮らしも長く続かなかった。一人になったジャマールはスラムで逞しく生き抜きながら多くのことを学び、運をつかんで来たのだった。

ムンバイは先週、世界を驚かせたテロ事件が起きた街。世界一位の人口過密都市として知られる。人口の5割から7割がスラムに暮らすと言われる一方、高層ビルの建設が続く激変する街だ。スラムは貧困と犯罪の巣窟でもあり、本作品の中でも子供の目をくり抜いて乞食をさせるギャング団が描かれる。

ところが、いくら悲惨な生活や非道行為が描かれても暗さに繋がらない。作品の芯にエネルギッシュな生命力が潜んでいるのだ。経済的成長を遂げつつあるインドの「時代の力」かもしれない。それを見事に引き出したのがイギリス人というのも面白い。

脚本は "The Full Monty" のサイモン・ビューフォイ。深刻ぶらずにビンボーを笑うスタイルがこの作品でも活きている。監督は "Trainspotting" 以来、閃光のようなカット割りを得意とするダニー・ボイル。夢に向かって突き進む若者の姿を、鮮やかな色彩と速いスピード感で仕上げ、極上の娯楽作になっている。彼の最高作の一つになるのではないだろうか。

上映時間:2時間。サンフランシスコはサンダンス・カブキ・シアターとエンバカデロ・シアターで上映中。

"Slumdog Millionaire"の英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/slumdogmillionaire/